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Friday Column

No.047

『トリビトン』

ちょっと前、夜中のテレビで女性タレントが“とりあえずビール”のことを“トリビ”と言っていました。酒を飲む会では、そこが居酒屋であろうが中華屋さんであろうが、まず最初にとりあえずビールをたのんで「おつかれ〜」と乾杯してからメニューを見る、よくある光景で私もよくその中にいます。

「とりあえずビールっていうの、アレ、いやなんですよね〜」とよく言っていたのは、1998年〜2001年の私のコンサートでキーボードを弾き、99年のステージでは曲中に国産大手4社のビールをブラインドで飲み当てる“利きビール”をやってのけた添田啓二氏。音楽家でありながらなぜか「ビアテイスター」という、ワイン界で言えば「ワインアドバイザー」のような難しい資格の持ち主(*)で、製法の違いによる様々なタイプのビールや、世界各国のビール事情に明るく、コンサート終演後の飲み会でも、一杯目のビールを注文する前から「茶色の瓶と緑色の瓶では何がどう違うのか」「ドライとそうでないものの法的な分別はあるのか」「九州でサッポロビールを飲むことになんらかの違和感を感じたことはあるか」などあれやこれやと質問攻めにしたりして楽しんでました。彼にとっては“とりあえずビール”が今や“トリビ”と略されているなんてのは、かなりの不快感でしょう。

そんなことはさておき、私は新作アルバムのレコーディング真っぱだかではなく真っただ中に超スットボケ休暇をとり、先週末から3泊4日で中国・杭州(ハンヅォウ)に行ってきました。今回は単身旅行ではなく、妻の両親との旅行に通訳・添乗員として同行した感じだったんですが、5年ぶりの大好きな中国、初めての杭州だったのでたいへん楽しめました。私の最大の興味は料理と酒。ガイドブックを読みながら必ず食べるべきと考えていたのは、市の中心にある大きな湖「西湖/シーフー」でとれる淡水の桂魚を煮て甘酢のあんをかける「西湖醋魚/シーフーツーユィ」と豚の角煮料理「東玻肉/トンポーロウ」。

日本の中華料理店でもポピュラーな「東玻肉/トンポーロウ」は杭州発祥の料理で、その成り立ちは調べれば調べるほど微妙にいろんな説があるんですが、11世紀後半、当時の政府官僚だった詩人「蘇東玻/スートンポー」という人が、西湖に関する大工事にたずさわる労働者にふるまったことからその名がついた、ということは共通していました。そんな本場の「東玻肉/トンポーロウ」、日本の中華料理店で出されるものと色・味・形はまったく同じ感じでおいしかったです。違いがあるとすれば、皮部をとらずに煮込まれていること。じっくり味がしみた皮部のゼラチン感と爽やかなライトビール「西湖緑雨」とのマッチングがべリグー。また、杭州に近い「紹興市」で作られる紹興酒「古越龍山/クーユエロンシャン」との相性も当然のことながら完璧で、ひゃ〜ひゃっひゃっひゃっと笑いが止まらない旨さです。さらにうれしいのはこの「東玻肉/トンポーロウ」、どのレストランでも1個から注文でき、一人分ずつ小さいお椀に入って出てきます。一皿の量がやたら多いイメージのある中華料理の中にあって、この1個売りのオーダープレッシャーゼロ感はとても良いです。

この「東玻肉/トンポーロウ」の1個売り、日本の中華屋さんや居酒屋なんかでもすごくウケる、というかすんなり受け入れられると思うんですけどね。仕事帰りのサラリーマンが店に入って、とりあえずビール、とりあえずトンポーロウ。「え、なにそれ、じゃオレもそれ」ってな感じであちらこちらで“トリビ・トリトン”。簡単に想像できるシチュエィションですし、これを更に省略したら“トリビトン”ですからね。なんだかすごいリッチな感じでヒルズ族にも浸透したらこっちのもん、メディアにホイホイ乗っかって一気に全国区です。どうですか、アリでしょう、これ。

というわけで先週のコラムN0.046のクイズの答えは「2.杭州」でした。

東玻肉と古越龍山

*添田啓二氏のビアテイスターの資格は2002年に剥奪されました。

2006/04/07


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