No.368
『千葉さんのカツカレー』
いきなりですが、私はカツカレーが好きです。月に1度くらいでしょうか、無性に食べたくなります。その多くの場合はなぜか朝。「あぁ、カツカレーが食べてぇ」と目が覚めて、ベッドから出ておしっこして歯を磨いてる頃には「お昼はぜったいカツカレーを食ってやる」と心に決めてしまうので、そこから家で作る余裕などなく、近所のとんかつ屋さんか、昔ながらの喫茶店に食べに行きます。
もとはなんらかのインド料理をイギリス人的に解釈したものが日本に伝わって現地化したらしいカレーライス。そこに“とんかつ”をのせることを発想したのは、料理人ではなくなんと野球選手だそうです。昭和23年、巨人軍の二塁手・千葉茂さんが、いきつけの銀座のレストラン【グリル スイス】で、「カレーにカツをのせてくれ」とリクエストしたことがその始まりだそうです。そういう意味では、極めてスポーティなメニューだと言えます。
そう言えばそうです。私はゴルフにいくと、必ずと言っていいほどカツカレーが食べたくなります。とは言っても、私のゴルフにスポーツ性はほとんどなく、天気が良くてメシがうまけりゃそれで善し。つまり遠足です。なので、前半のラウンド中は、「昼飯、なに食ってやろうか」、ほとんどそれしか考えずにプレーしています。そして、2時間ちょっと走り回って9ホール終える頃には、おなかは充分すぎる程すいていますので、やはりここは、ガツンと食いたい、と思うわけですから、メニューをいろいろ見ることは見ますが、結果やっぱりカツカレーになることがほとんどでした。
帰国直後の埼玉県のどこかのゴルフ場では、前半ラウンド終了以前にすでに、「今日はカツカレーを食ってやる」と決定して、すでにカラッと揚がったカツレツが頭の上にのっかったような状態で前半を終えた私が、クラブハウスのレストランのテーブルにつき、メニューにカツカレーがないことを認識した時の落胆はものすごいものでした。
そんな辛い経験もあり、また、せっかくいろんなおいしそうなメニューがあるゴルフ場のレストランでありながら、どこに行こうがいっつもいっつもカツカレーばっかり食べようとしているなんてのはどうにもつまんないんじゃないか、とやっと思うようになったここ最近は、ゴルフに行く前日にカツカレーを食べておくようにしてます。すると、「昨日カツカレー食っちゃったからなぁ」と、別のメニューをじっくり見て選ぶゆとりができるのです。5月の北海道・島松では“あんかけ焼きそば”を、4月の千葉・皆吉台では、“九十九里 はまぐりラーメン”を食べました。
この“九十九里 はまぐりラーメン”、はまぐり出汁の美しく澄んだスープはたいへんに味わい深く、岩のりと葉の花で上品なアクセントをつけた、街のラーメン屋さんではちょっとお目にかかれない逸品。たいへんおいしゅうございました。ちなみにこの“九十九里 はまぐりラーメン”を注文する時に、発音の区切りポイントを敢えてズラして、“九十九里浜 ぐりラーメン”と言ってみましたが、ウェイトレスさんにライトにスルーされました。
前日にカツカレーを食べておくという発想のない私以外3人は、やはりガツンとカツカレーが食べたくなったのでしょう。しかし、ここのメニューにカツカレーはなく、3人は揃って“マーガレットポークのひれかつ膳”を食べてましたよ。はっはっはっは。
このことでなんで優越感に浸れるのか自分でもよくわかりませんので、話を元に戻します。
カツカレーの発祥店【グリル スイス】も、その発祥の逸話も、お店の所在地もかなり前から知ってはいたものの、よぉく考えたら、その元祖カツカレーを私は一度も食べたことがないじゃないか! ということに気づきます。それはまずい。というわけで、書くことなくて困ってた今週のこの金曜コラムのネタも兼ねて今日のお昼、食べに行ってきました。
お店の前に来て気づきましたが、数年前、元祖カツカレーを食べる目的でこの場所にやって来たはいいが、変なクセで意識的に間違って隣の【煉瓦亭】に入ってみたところ、“ポークカツレツ”も“カレーライス”もメニューに載っているものの、“カツカレー”はなし、という不可解な現実に直面し、それはおかしいだろうと思い、「カツカレーはないんですか?」と訊ねると、「カツカレーはないんですよ」と言われ、じゃぁ、カツカレーを食べに銀座までやって来たオレはどうすりゃいいんだ。ポークカツを食べるべきか、いや、カレーライスにするべきか。まよったあげく“ポークカツレツ”を注文して、頭の中でカレーをイメージしながら食べました。な〜んてことがあったってことを思い出しました。いやでも、【煉瓦亭】のポークカツレツは、たいへんにおいしかったのですよ。
・・というようなこともあって、今これから目の前の【グリル スイス】で食べようとしている“元祖カツカレー”に、必要以上に胸が高鳴ってきました。しかし、いっくら期待したところで、あくまで大衆食であるカツカレーですから、とてつもなく感動して、これまでのカレー観念を根底からひっくり返されるようなことはあり得ないでしょうから、へんに期待するのは逆効果になる危険性も孕んでいますから、少し気を落ち着かせようという意味も含めて、1丁となりの【山野楽器】に行って、きゃりーぱみゅぱみゅちゃんのアルバム『ぱみゅぱみゅレボリューション』を買ってみました。
さて、プレーンでナチュラルな気持ちで、再び【グリル スイス】にやってきました。もう13時半を過ぎていたので、ランチタイムの混雑も落ち着いた後のようです。「こちらにどうぞ」と私はひとりですが4人がけのテーブルに案内されました。
メニューを見ると、『千葉さんのカツカレー/1,365円』と『元祖カツカレー/1,050円』とがあり、その違いを訊ねると、「“千葉さん”のほうが、お肉が上ロースですからちょっと分厚くて、お野菜もついてますよ」ということでした。きっと、昭和23年、千葉茂さんの「カレーにカツをのせてくれ」というリクエストで出されたそれと同じ盛りつけなのでしょう。と思い、そちらをいただくことにしました。
で、ついにやってきました。カツカレーの発祥店【グリル スイス】の『千葉さんのカツカレー』です。
おおお、なんとも食欲をそそる香りと体裁。キャベツの千切りに寄りかかるポークカツ、そしてアーモンド型に盛られたライス全体を覆うようにカレーがどっぶりかかっています。そして、それは期待に充分に応えるものでした。なんつったってカレー自体がとってもおいしいです。“感動”というほど大げさなことはありませんが、私がこれまでの人生で食べたカツカレーの中で、特別に心に残るものであることは確かです。さすが、銀座の老舗。またこのカツカレーを食べるためにときどき銀座に来よう、と思える一皿。たいへんおいしゅうございました。
はぁ〜い、というわけで、今週はこんな感じでそろそろオヒラキ。
比較的時間に余裕があるはずだった5月に作り終えるはずだったものを持ち越したかたちで迎えた6月。それもあって、異なる3種の制作を同時進行しなければならなクなっちゃった今月のスケジュールはすでにほとんと埋まっています。これは、カツカレーと広島風お好み焼きと長崎ちゃんぽんを同時に調理しなければならない、そんなイメージですが、私はどうすればいいのでショッカー、イィーッ!
どうあれ、それは“感動”というほど大げさなことでなくとも、その作品・演奏に触れていただく皆さまの心に特別に残るものでなければなりません。そう、さっき食べた『千葉さんのカツカレー』のように。なぁ〜んてね。てへっ♡
ところで、そーとー風変わりな企画【ユー・アー・ザ・タイトリスト】は、エントリーを締め切らせていただきました。積極的な御参加ありがとうございました。皆さまからお寄せいただいた作品をじっくりと時間をかけて見て考えイメージし、特別審査員の常田真太郎氏とともに真剣極まる審査を行いたいと思います。いやぁぁぁ、これそーとー楽しみです。
2012/06/01
|