No.121
『31』
尊敬すべき先輩ロックバンド【STARDUST REVUE】の新作アルバム『31』が、9月5日発売になりました。今回はこのアルバムについて何の承諾も得ず勝手に書かせていただきます。
私が初めてスターダストレビュー(以下スタレビュ)を見たのは、たしか上京した81年の夏、TBSの夕方の番組、日比谷のなんらかの野外特設ステージみたいなところでの生演奏でした。「なんだかおもしろい感じのお兄ちゃんたちだなぁ」というのが正直な第一印象でした。曲はたぶん『シュガーはお年頃』だったのではないかと思われますが、そのコーラスワークは強く印象に残りました。そんなスタレビュの皆さんとの直接の出会いは、いつ頃でしょうか、たぶん、1988年か89年くらいだと思いますが、私が現在の所属事務所アップフロントエージェンシーに入った年の忘年会か、翌年の新年会だったんじゃないでしょうか。森高千里とサラッと自然に会話する能力を持つ私に根本要さんは、「おまえ、森高と普通にしゃべれるんだぁ」とすごくうらやましがっていたのをよく憶えています。最初に一緒に飲ませていただいたのはそのちょっと後でしょうか、なんかのイベントかなんかの帰りにパーカッションのVOH林さんと、スタッフ数人と下北沢の線路沿いの渋〜いバーで飲みました。「なんだかわかんないけど、かなり機嫌が悪いんだな」という印象だったもんですから、VOHさんが好きだというプロレスの話題を、少ない知識の中から必死で絞り出してどうにか機嫌をとろうとした私でしたが、後でスタッフに聞くと、ぜんぜん怒ってたわけではなく、そういう顔立ちの人だったということでした。スタレビュのコンサートを初めて見たのは、たしかこの頃の横浜だったと思います。
その後、根本要さんと、当時同じ事務所に所属していたアーティスト・安藤治彦くんと中目黒の焼き鳥屋さんから2軒目のバーへと飲み移り、かなり飲んでしゃべって結構イイ時間になったので私はそろそろ先においとましようと思い、「じゃ、ボクは先に失礼します」とポケットから一応お金を出すフリをすると、先輩・要さんは「バカ野郎、いらねぇよ」とそっぽを向きました。だからといって「じゃぁ、ごちそうさま」と退散するのもなんだなと思い、気持ちだけでもと小さくたたんだお札を嫌がる要さんのシャツの胸ポケットに無理矢理押し込んで「じゃぁ、失礼しま〜す」と店を出て通りでタクシーに手をあげました。すると、要さんが「千円じゃねぇかよ、コノヤロー!」と怒鳴りながら走って追っかけてきたので逃げるようにタクシーに飛び乗ったものでした。私はあくまで後輩として“気持ちだけでも”の千円札だったんですが、要さんは表向きは拒否しながらも、頭の中では折りたたまれた1万円札をイメージしていたのでしょう。でも、なんで走って追っかけてきてそのあとどうしようとしたのかは不明です。
91年は、いくつかの野外イベントに一緒に出演したこともあり、いろいろお世話になりました。ベースの柿沼清史さんは、当時から私の音楽を好意的に聴いてくれていたらしく、コンサートにもちょくちょく来ていただきました。その後、久しぶりに同じイベントに出演したのは98年8月15日、大阪の南港でした。まず私がバンドで演奏し、次にサムシング・エルスが3人で演奏し、トリにスターダストレビューが登場。そのステージのアンコールとして、私とサムエルを呼び込み、私とスタレビュの楽曲を全員で演奏すると企画があったのですが、まだ30代だった当時の私は“野外=農作業”という常識感に満ちていたもんですから、自然な流れで“農夫”の衣装で背中にカゴをしょってステージに上がると、要さん、本気で怒っちゃっいましてね。「カゴをとれ」って言うもんですから、私も若かったんですね、「ズボンは脱いでも、カゴだけは下ろせねぇ」と反発し、そのまま『すべての悲しみにさよならするために』『Thank You』を熱唱し、ステージは終了しました。打ち上げでも要さんは「KAN、アレはねぇよ、アレはない」と、ずっと静かに怒ってました。しかし翌99年には私のライブビデオのホストとしての出演を快諾してくれて、わざわざ札幌までコンサートを観に来てくれた寛大な根本要さん。それでもあの件に関してはまだ怒っていたようです。
・・とこのようなことをいろいろ書いていくとキリがないんですが、99年・00年は【Pacific Heaven Club Band】として横浜・名古屋・大阪で計6公演、05年のスタレビュの『楽園音楽祭05』には“隠しゲスト”として4公演と、長きにわたりいろんなかたちでお世話になって、その度、夜遅くまで一緒にお酒を飲ませていただいている、私にとっての愉快で大きな先輩・スターダストレビューのみなさんなのであります。
さて、話はやっと本題、スタレビュの新作アルバム『31』です。いやぁ、知り合いの新譜を聴くというのはある種の緊張感がありまして、しかも“先輩の新譜”ですから、その緊張感もちょっと特別です。だってですよ、聴かせてもらって、もしつまんなかったらどうします? 次ぎ会うときめちゃくちゃ言葉選んじゃうじゃないですか。しかも、この新譜を聴く数日後には『ロックボンソワ』のインタビューも決まっていたわけですから緊張しました。そんな感じで聴かせていただきましたが、よかったです、ホント。あぁよかった。
では、私なりの特筆楽曲をいくつか。
M1. Spice of Life 作詞:寺田正美 作曲:根本要 編曲:添田啓二
ベースの柿沼さんが気合い入りまくりで考え抜いたという曲順で1曲目に決まったのがコレ。いきなりガットギターのフラメンコ調フレーズから入る、アーバンスタイリッシュラテンジャズナンバー (USLJN) です。添田くんによるマットビアンコ調のアレンジもカッチョヨク、また原朋直さんによるトランペットソロも秀逸です。「人生は挫折と後悔の日々」という詞をドラムの寺田さんが書いたことにもまた特別な趣を感じます。歌詞がつく前段階の仮タイトルは『ペコ』だったそうです。
M3. 彼女とOh My God ! 作詞作曲:根本要 編曲:添田啓二
気もちんよいテンポのポップなAORナンバーですが、要さんが「50を越えた記念にこうゆう曲を歌おう」と書いた歌詞はなんともヤング&プリティです。歌詞に出てくる駅のイメージは山手線の“五反田”。池上線方面からやってきた彼女と、行き先も決めず飛び乗った電車はなぜか湘南の“江の電”だそうです。
M4. 愛の歌 作詞:STARDUST REVUE 作曲:根本要 編曲:添田啓二
先行シングル曲。07年5月19日、さいたまスーパーアリーナ(略して=たま酸っぱいなぁ)での6時間を越える大コンサート『25年に一度の大感謝祭 おやつ付き』に集まったオーディエンスの皆さん15,000人による、その場で録った壮大なコーラスがミックスさています。
M7. Strange Dance 作詞作曲:根本要 編曲:矢代恒彦
80年代のブリティッシュサウンドにのって、近い将来の地球にやんわりと警告を発する“社会派ディスコ”ナンバー。矢代さんによる、シンセとギターを16分で細かく組み合わせる緻密なアレンジと、なんとも律儀なストリングスアレンジもおもしろいです。
M9. 煙が身にしみる 作詞作曲:根本要 編曲:STARDUST REVUE&添田啓二
まるでニューヨークのような昨今の日本の禁煙傾向を「むかしはみんなでパッパシュビドゥワ」と嘆く、スウィンギーでちょっとラグタイムで、でもどこかちらっとハワイアンなスモーキン・ブルース。歌詞とメロディがベストハマリ賞。1番と2番の韻踏み具合も素晴らしいです。
M10. 大事なものは見えない場所にある 作詞作曲:柿沼清史 編曲:添田啓二
待ってました、柿沼さんナンバー。誠実で深みのある日本のスローバラードです。「コンサートでは、是非、柿沼さんのベース弾き語りで」と強く要望しましたが、たぶんないと思います。あったらうれしいんだけどなぁ。
と、そんなこんなで全11曲の新作アルバム『31』。なんつたって31枚目ですよ、31枚。その内訳を、オリジナルアルバム・ライブ盤・ベスト盤と別けて数えてみようと思いましたが、あんまり数が多いんでやめました。とにかくなんやかんやひっくるめて31枚目なんですから、スゴイことです。「おっ!?」と今まで聴いたことのないっぽいスタレビュもあれば、昔ながらのスタレビュなどいろいろあって、いい意味でうまいこととっちらかったとても楽しい素晴らしいアルバムです。是非是非、皆さんにもじっくりお聴きいただけたらと思います。
コンサートツアーは、10月から来年の春にかけて、これまたたいへんな公演数がすでに決まっているようです。詳しくはスターダストレビューのオフィシャルサイトを御確認ください。
2007/09/07
※9月8日(土)深夜のSTVラジオ『KANのロックボンソワ』では、根本要さん・柿沼清史さんのインタビューを中心に『31』特集(その2)を放送します。
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