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Friday Column

No.100

『桜は日本人の心なんだよ』

東京では桜も散り、それはそれではかなげで趣があり、北の方はこれから少しずつ咲き始めるそんな季節ですが、皆さまはいかがおす護身術。

ここ数年は3月になると桜関連の楽曲がやたらとリリースされ、今年もそんな楽曲を数多く耳にしました。もちろん自身で楽曲を作るアーティストには、桜に関連するそれぞれの思いがあり、時間をかけてそれを作品化するのでしょうから、それぞれじっくり聴くべきものであると思います。しかし、じっくり時間をかけて物を売るというのが許されにくくなっている昨今の日本では、今この時期に、短期で結果を出さなければならないというビジネスライクな状況下にある人々は多く存在しうるわけで、ゆっくり考えている暇はない、“とりあえずとにかく桜で”と作家に歌詞を発注してリリースされているような作品もありそうな雰囲気はいなめなめなめなめません。というようなものも含めて同じ時期にどわぁ〜っと出てきてしまうと、どうしてもひとつの大きな群に見えてしまって、音楽家としては決して爽やかな現象ではありません。

思えば90年代前半の日本のクリスマスはなんだかもう悲惨でした。もともとは外国発祥の宗教の重要な日である“クリスマス”が、西洋風の明るく楽しいイベントとして日本に定着してからもう何年くらい経つのかはわかりませんが、その本来の宗教的意義などは度外視した“ビジネスチャンス”としてマスコミにより煽りまくられた90年代の日本のクリスマス。ホテルはどこもクリスマス宿泊プラン、レストランもクリスマス特別ディナー、街はとにかくイルミネイション、もうなんでもかんでもどうでもいいからなんかわかんないけどクリスマスってなもんでした。“クリスマスはステキな彼と二人で”という状況を作れるか否かそれだけで、その一年が素晴らしい年だったか最悪の年だったか結果付けられてしまうような強迫観念に苛まれた何の罪もない女性は数多くいたことでしょうし、また、そんな影響をモロに受けるタイプの男性は、クリスマスに彼女を最高に喜ばせてあげられないなんてのはどうせ仕事もろくにできない最悪のヤツ、という評価を受けたりしたものでした。

当然毎年年末に向けてあの手この手のクリスマスソングが次々にリリースされました。はい、私も出しましたよ、92年と2000年に。私の場合は、5歳から14歳まで毎週日曜日はかならず教会に通った、洗礼さえ受けてないものの立派なイメージクリスチャンなもんですから、決して日本のクリスマスブームに乗っかって作ったわけではありませんよ、こう書くとかえって言い訳っぽいですけど。

そんなクリスマス合戦もやがてだんだんバカバカしく思えるようになって、「クリスマスは家で家族と過ごすものなのよ」とヨーロッパ調の発想にやおらうつりかわり、90年代の終わり頃から日本のクリスマスは自宅に電飾を施す“セルフ・イルミネイション時代”へと移行します。これも最初は暖かみがあってよかったんですけどね、節操のないメディアはなんでもかんでもネタにして煽り立てますから、テレビを消せない多くの人たちはどうしたって煽られますし、セルフイルミネイショングッズも様々な商品が競って乱出し、そのうちイルミネイションコーディネーターまででてきちゃいますから、何年もしないうちに“そういうんじゃないんだよなぁ状況”に迷い込み、ここ数年は白と青をベースにした発光ダイオードのやつが主流になったもんですから、あの白熱球のイルミネイションの暖かみはスッ〜となくなってしまいました。ここまできたら煽る側も煽られる側もお互い、もういいんじゃないですかクリスマスは、という気分になった感がありますね。

そんな“日本のクリスマス”の盛り下がりと入れ替わるように俄然盛り上がってきたのが“桜”です。

というふうに考えると、ここ数年、次々にリリースされる桜関連楽曲は、かつてのクリスマスソング的な存在であると言えます。でも、日本においてはあくまで外国の文化である“クリスマス”よりも、日本の象徴的な“桜”のほうが良いにきまってます。イメージ先行のクリスマスソングよりは“桜関連楽曲”のほうがどうやったって日本人の心に響いてくるはずなのは気候風土が裏付けるでしょう。なのでよかったじゃないですか、ねぇ、よかったんですよ、これで。

なんつたって、12月26日になったら一気に撤収して正月の準備にとりかからなければならない“ケツカッチン・クリスマス”に対して、“桜”は日本人の心ですからね。南北に長い日本列島では“桜”はちょうど世の中の別れや出会いの時期をまたいでなんやかんやで2ヶ月くらいは充分引っぱれますし、散ってしまったあとの葉桜もなんともいえぬ情緒に満ちた風情です。

なんてことを今ごろ考えていた私はすでにすっかり時代に乗り遅れているようで、そんな日本人の心や情緒までもどうにかビジネスにならぬものかと考えてしまう悲しむべき現代ニッポンなもんですからこの先が思いやられます。お菓子や料理や飲み物はまだいいんですが、おそらく多くの人が真剣に研究開発しているだろう“生でそのまま食べれる桜の花の大量生産”が現実的なものになったとしたら、流行のラーメン屋に“さくらーめん”“桜つけめん”なんてのが来春あたり出てきたとしてもおかしくないです。花見だってゆっくりやってらんないですよ、あちこちで勝手にビニーシート敷いて盛り上がってる人たちを一カ所に集めちゃえばそれもまたビッグビジネスチャンスですからね。そう、花見もドームの時代に突入です。福岡ドーム・大阪ドーム・ナゴヤドーム・東京ドーム・札幌ドーム、どこだっていいんですよ。人工芝のグラウンドに桜の木が300本持ち込まれての“ドーム de 花見”。前売り入場券を買いさえすれば、もう新入社員の皆さんも花見の場所取りなんてする必要はありませんよ、あとはみんなで手ぶらで行きゃぁいいんです。背中に大きなディスペンサーをしょった桜ギャルが生ビールを売って歩き、桜バーガー・桜ドッグ・桜やきとり・ポップチェリー、もうなんだっていいんですよ、桜でありさえすれば。なぜか全身ピンクの桜ジャビットくんがあっちこっちで桜の花びらをまき散らしながらバク転してみせます。バックスクリーンの特設ステージではフレッシュなシンガーが桜関連楽曲を歌いまくり、1時間に一度の“桜吹雪タイム”なんてのは屋外では制御できないドームならではの興奮のアトラクションです。なんて光景を連日テレビで取り上げるもんですから、「バッカじゃないの」と言いながらもみんな1回は行っとかなきゃいけない気分にさせられます。そうなったらこっちのもん、もう桜の開花の時期なんて無視、要は散らさなきゃいいんです、散らさなきゃ、ね。ドームですから、薬品打って温度保ってれば結構持ちますよ。あぁぁぁいやだいやだ、充分あり得ますよ、どうします。日本人の心・情緒までどうにか換金しようとする現代の日本。このいかんともしがたい状況に私はなにができるというのでしょうか。悲しいかなくやしいかななんにもできないんですよ。そんなイメージで1枚撮ってみました。


桜は日本人の心なんだよ

こんな感じで時にムリヤリで結論もないままこの金曜コラムも回を重ねて100回。おつきあいいただきありがとうございます。そんな私は桜前線に逆行して今日から松山→長崎→福岡福岡→広島と西日本ツアー、それはある意味、うどん→ちゃんぽん→ラーメンラーメン→お好み焼きの粉モノツアーでもあります。おなかいっぱい胸おっぱい。どちらさまもよろしくお願い四万十川。

2007/04/13



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