No.097
『寒かれ暑かれサムソナイト』
さぁ、本当に始まりました『弾き語りばったり#5』。この原稿を書き始めた現在は21日(水)午前、公演初日の神戸へ向かうスカイマークBC105の機内です。数十分後には去年開港したばかりの神戸空港に初めて着陸します。航空ファンの私にとっては楽しみなランディングです。神戸のあとは京都・大阪と関西三都に計5泊、荷物はでっかいスーツケースです。今回はこのスーツケースについて書いてみます。
この紺色の【Samsonite 375 series F’LITE COMFORT】、1994年秋にフランス・パリのカバン屋さんで買いました。で、これがたいへんにおマヌケな話でして・・・。全国ツアーなどで長旅が続くようになった92年頃、のマグネットキーでロックするタイプの黒くて大きな【Somsonite Spinner】というのを買って使ってました。94年秋の欧州旅行の時にもその【Spinner】に荷物を詰めて、パリ便出発が午前中だったこともあり、なんらかの無料宿泊券があまってたこともあり、前夜成田の日航ホテルに泊まりました。「明日はパリだぁ〜」なんて思いながら最上階のバーでひとりでワインでも飲んで泊まって翌朝、パスポート・チケット・カメラにガイドブックと機内に持ちこむものだけを出して、あとはスーツケースに詰めて「これでOK」ってことでマグネットキーでしっかりロック。JAL便なので日航ホテルのロビーにあるカウンターでチェックインできますから、スーツケースもそこで預けて、すっかり身軽になってホテルのバスで空港ターミナルに向かい、パリ行きにウキウキ乗り込みます。
この時の宿泊はポルトマイヨのル・メリディアン・エトワール。エールフランスのリムジンバスがホテルの正面に着いて、スパッとチェックイン。部屋に入ってとりあえずシャワーでも浴びようか、とスーツケースを開けようと思ったんですが、あら?え?あららら、あちゃ〜、マグネットキーがありません。はぁぁぁ〜、パリはもう3回目とはいえ、やっぱそわそわしてたというかあがってたんでしょうね。成田のホテルの部屋に置いてきたんだろうな、と日航ホテルに国際電話してみたらちゃんとありました、マグネットキー。しかしパリまで送ってもらうのを待ってるわけにもいかず、どうしたもんかと考えますが、なにしろ12時間のフライトの後なので、とにかくシャワーを浴びたいってことで、ホテルの向かいのショッピンセンターでパンツとシャツと靴下をさがします。あるにはあるんですけど、みんなデカイんですね。でもまぁしょうがないととりあえずひと揃い買ってきて、シャワーを浴びてデカシャツ・デカパン・デカ靴下に着替えて、『TOKYOMAN』の歌詞にも登場した在パリ唯一の友人と夕食にでかけました。
「というわけでスーツケース開かないんだけどどうすりゃいいのよこの私」と相談すると、「今日はもうどこも閉まってるから、明日サムソナイトを扱ってるカバン屋さんをさがして、で、私は仕事でいないから、友達をつきあわせる」ということになり、翌日、そのお友達と待ち合わせをして「初めまして」ってことでカバン屋さんに連れて行ってもらいました。カバン屋さんの御主人は「うちはサムソナイトの商品をたくさん置いてますけど、このタイプのカギは初めて見ましたねぇ。これどこで買ったんですか?」「東京です」「うぅぅん、フランスにはこのタイプのマグネットキーは存在ませんよ」「そうすか」「で、どうすします?壊します?」「壊すしかないっすよねぇ」ってなやりとりをお友達に通訳してもらい、御主人は奥から工具を持ってきてカギの部分をガガガガガガガゴッガゴゴゴガガァと剥ぎ取り、2年弱の付き合いだった黒くてデッカイ私にとっての初代スーツケース【Spinner】とは、ここパリのカバン屋さんでさよおなら。で、代わりにその場で購入したのがこの【Samsonite 375 series F’LITE COMFORT】というわけです。3桁のナンバーロックタイプなので、もう“カギを忘れた日本人”になることはありません。番号は買った日付にしました。
あれからかれこれ12年半、真夏のベトナムへ、真冬のロシアへ、暑かれ寒かれサムソナイト。この紺色のスーツケースをガラガラガラガラ引っぱって旅した国は20を超えます。今回のツアーもこれに衣装と靴と歌詞と楽譜と普段着とシャツとパンツと靴下とパジャマと三脚とその他なんやかんやをギューギューに詰め込んで北は札幌、西は長崎までガラガラガラガラ旅します。
このコラムを書き終える現在は22日(木)夜、京都公演終了後のホテルです。神戸・京都公演を観に来てくださったみなさん、ありがとうございました。お楽しみいただけましたでしょうか。じゃぁ、飲みに行ってきます。
2007/03/23
※写真内のボーイング機はいずれも明らかに合成されたものです。
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