No.090
『最近オレはアナーキー』
最近のオレは妙にアナーキーだ。それはつまり、ここのところ急に靴下に穴があきだしたのです。私の場合、日常的な靴下は約20足くらいありその半数以上はユニクロの商品。靴下の穴というのは穴があきそうな時にはほとんど気づくことなく、あいて初めて認識するものですが、なぜかここんとこにわかにそれを認識しているわけです。
パリ在住時の洗濯機はヨーロッパ製のイカツイやつで、ばっちり1時間45分かけて洗濯物がクタクタになるまで洗い倒してくれるもんで、それでもって洗剤もデリカシーに欠けるやつだったもんですから、タオルはことごとく色あせ、パンツはあれよあれよとヨレパン化、靴下はこぞってアナーキー化しました。しかしパリでは自宅以外で靴を脱ぎ靴下を露呈することはまずあり得ませんし、他人の家におじゃましても靴を脱ぐことはないので気にせずはき続けてました。帰国が決まりアパルトマンを退去する時の大掃除に多くのアナーキーな靴下はボロギレ代わりに使って処分し、帰国後、不足分をユニクロでまとめ買いしました。あれから2年半たった今、なぜか次々と靴下に穴があきだしたというわけです。最初は“ユニクロの靴下は2年半くらいで穴があく”という研究結果が研究もしてないのに出た、と思ったんですが、いやいやよく調べてみると、穴があいたのはユニクロの靴下だけではなく、ツアー先などで靴下が足りなくなった時にコンビニで買い足した幾つかの靴下にも同様に穴があいています。
日本では他人の家におじゃますることは滅多にない引っ込みじあんな私ですし、座敷のあるところで飲んだり食べたりする機会も年に1〜2度あるかないか程度の生活ですから、このアナーキーソックスを何ら気にせずはき続けても、親指の爪の辺りが寒くなるわけでもなく、そこからテントウ虫が侵入することもなく、別に困ったことは何もないですし、逆に通気性がいいんじゃないかという考え方もできるんですが、いやしかし、なんせ連鎖的に穴があきだしたもんですから、それでもって毎週書くこのコラムのネタというのも常になにかないかと探していることもあって、このアナーキーな状態を自分の中で特殊な現象として必要以上に盛り上げて捉えたい、という気持ちになっているのかもしれません。
というわけでこのアナーキーソックスをコラムの題材としてとりあげて、その写真まで載せてしまったということは、これを読んでいるみなさんは“KANは穴のあいた靴下をはいている”ということを強く意識するわけですし、そんな意識をひきずったまま3月から始まる『弾き語りばったり #5』を観に来ていただいたとするとどうでしょう。私がピアノを弾いて切ないラブソングを熱唱している最中にも「やっぱり今日も穴があいているのか、心なしかペダルの踏み方もぎこちなく見える。そうだ、やっぱり穴があいているんだ。親指の先あたりがスースーしてるんだろう。だからトークにもイマイチ切れがない・・」とかそのようなことを考えながら歌を聴くという不安定な状態に陥る可能性も無きにしもアラブ首長国連邦。うぅぅん、これは非常にマズい。ここはハッキリと「穴のあいた靴下はすべて処分しました」と脱アナーキー宣言をして、処分した証拠映像をYouTubeかなんかで公開するべきではないか。
しかし、靴下としての機能はまだまだ充分果たせるものを小さい穴があいたというだけで一気にまとめて処分するなんてことは私の生活信条に反する極めてアメリカ的な行為であることは明らかだ。ならばこのアナーキーソックスの斬新な活用法を考案するべきではないか。小さい穴、小さい穴・・・と考えていてなぜか自然に思いついちゃったのは“盗撮”だ。右足の親指部分の穴に超小型CCDカメラを、左足の親指部分の穴には超小型LED照明をそれぞれ内蔵し、掘りごたつ形式の居酒屋で合コンを開催し、向かいに座った女性の太もも辺りを盗撮するのだ。・・・いやしかし、ビデオカメラ本体はどこに忍ばせるべきか。ウェストポーチに忍ばせるか、いや、ウェストポーチなんて今どき初めての海外旅行者だって腰に巻いたりはしない死物で逆に目立つ。「わぁ〜、そのポーチかわいい〜!何が入ってるんですかぁ?」なんてことになったりしたらのっけから最悪だ。じゃぁ、ワイヤレスの小型CCDカメラを買って、ビデオ本体はカバンの中に入れておけば良い。しかしその居酒屋が妙に高級な店でに入店時に「お荷物おあずかりします」なんて言われたらどうするんだ。「い、いや、結構です」とカバンを抱きかかえた時点ですでに不自然だし、左右の足先にCCDとLEDを内蔵している以上歩き方もすごく変になってるはずだ。だいたいワイヤレスのCCDなんて売ってんのか、売ってたとしても一体いくらするんだ。という否定的な発想ばかりではこのような繊細な作戦はうまくいくはずがない、ってことでポジティブ思考で密かに自宅リハーサルを繰り返し、自然な歩き方でカバンも自然に持ったまま合コン現場の掘りごたつに到達したとしよう。それでも向かいに座った女性がスカートではなくズボンをはいてたらどうだ、元も子もないぢゃないか。
・・・うぅぅ〜ん、そうだ、問題はそこだ。最近の女性はスカートをはかなすぎる。なぜにスカートというあんなエレガントな装いの女性がこんなに少ないんだ。それに最近はジーパンをはく女性が多過ぎる。なんの流行かは知らんが、あんなもんはテキサスの荒くれ娘が馬に乗って20km先のスーパーマーケットにコンビーフとスパムの缶詰を大量に買いに行く時にはく物だ。それが日本女性のオシャレ着として一般化していることがどうしても解せないのだ。もし私が女性だったらどんな時でもエレガントなワンピースを着るのになぁ絶対、といつも思っているんだ。
・・・うぅぅ〜んダメだ。靴下に次々穴があいたことをキッカケにあれこれ書いてみたが、どうにも出口が見つからん。どころか女性読者を完全に敵にまわしてしまった感じもするではないか。なんとか写真でごまかせないものかってことで試しに靴下の穴から外界を見たらどう映るのかとアナーキーソックスにデジカメを押し込んで穴とレンズの位置を合わせて自分で自分の写真を撮ってみるにみたが、うぅん、やはりなんの解決にもなりそうにない。でも、アーティスト写真としては意外と斬新な気もしないでもなかったりはやっぱりしない。どうあれ、とりあえずこれで今回のコラムはなんか書いたってことで無理矢理にでも消化するにはしたんだから、それでいいんだと思うことにしよう。「はい、よくがんばったね」とほめてほしいだけなんだ。ううぇぇぇぇ〜〜〜ん(泣き)。
2007/02/02
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