No.079
『やりきる美学がそこにある』
いやぁ〜、楽しいですよ、“パイロットとスチュワーデス”のリハーサル。そう、創刊からコラムを書かせていただいている雑誌『LuckyRaccoon』のライブイベント『LuckyraccoonNight vol.1』のリハです。東京公演はいよいよ明日18日です。Mr.Childrenの桜井くんと私がどのような演奏を披露するか、チケットをゲットした皆さん、楽しみにしてください。
さて、今回は最近強く衝撃を受けたプロモーションビデオの話です。先月のロシア旅行は基本的にやることのない休暇旅行だったので、ホテルのベッドで横になってただただぼぉ〜っとテレビを見てる時間も多くありました。ロシアにいるので基本的にはロシア語の放送を見て、ときどき辞書で単語を調べてみたり、といった感じでしたが、たまにはMTVも見たりしてました。
Jamiroquaiの新しいやつ「Runaway」もカッコよかったですし、名前だけは知っていたChristina Aguileraという女性アーティトの「Ain’t No Other Man」ってのを初めて見たんですが、 これがまたドラム・ベース・ブラスセクションのサンプリング音源だけで作り込んだシンプルなオケでありながらの凄いビート感、なにしろ歌の迫力が凄い、PVの贅沢な作りも凄い。決して好きなタイプではないんですが、やっぱアメリカの一流にはどうやっても勝てませんよねぇ〜、なんて思いながら見てました。で、その数分後に流れたあるPVにそれまでのことなんかど〜でもよくなっちゃうくらいの強い衝撃を受けたのです。
『OK GO』というバンドの「Here It Goes Again」。 それはもう、「え、なに?」と思って食いつき、あまりの衝撃に見終わった後はベッドからずり落ちてました。すでに日本でも話題になっているそうなのでその存在を御存知の方も多いでしょう。まだ御存知でない方はここから先を読みすすむ前に、まずはそのビデオを見ていただいたほうがいいかもしれません。「Here It Goes Again」という曲を見てください。
どうですか、スゴイでしょう、スゴ過ぎるでしょう。 「えぇ〜?、別に〜」と思った方はまた来週、このページでお会いしましょう、さよなら!
で、続けますとね、ルームランナーを交互に2列8台並べて、曲のあたまからおわりまでひたすら踊る。いや、あれは“踊り”ってのとも違う、なんと表現すればいいのか、“踊り”とか“ダンス”とか“振り付け”とかというニュアンスとはじぇんじぇん違って、うぅ〜ん、とにかくメンバー4人が自分たちで考えた風の“独自の動き”で1曲のプロモーションビデオをやり切るのです。しかもワンカメ撮り切りノー編集。あれはねぇ、ひっくり返りましたよ、ホントに。
「PVを作るに充分な予算がない」→「最もお金がかかる作業は編集だ」→「ならば編集なしのPVを考えよう」的な流れから皆でアイディアを絞り出した結果なのか、それともどこかでたまたまチビッコがルームランナーで跳ねたり転んだりして遊んでいるのをなんとなく見てるうちに「!」と思いついたのかはわかりませんが、その発想の素がどのようなものであるにせよ、あんな動きもできるしこんな動きはどうだろう、ならば回転方向を交互に並べるのはどうだ、するとこんな動きもアリじゃないか、といろいろなバリエイションを考えてやってみて作っていくんでしょうが、それを1曲を通して作り込む構成力がまずスゴイ。
そして、PVには“TREADMILLS”と表記されているいわゆるルームランナーという健康器具の本来の用途を明らかに逸脱した全く新しい活用法を見いだし、それを最大限に活かしているのがすごくスゴイ。
しかもこれバンド4人でやっているのです。誰かがこのアイディアをメンバーに話したとして、4人全員の意見が「いいじゃん、おもしろそう」と一致するでしょうか。「それっておもしろいの?」「ってゆうか勘違いされんじゃないの?」と言う意見が誰かしらから出て当然です。もし幸運にも4人全員が「いいじゃん、おもしろそう、やってみようぜ」と一致したとしてもですよ、ワンカメ撮り切りノー編集ですから、動きを全編考えて作って何度も何度も練習してるうちにだんだんバカバカしくなってきて「オレたち今なにやってんだっけ?」「オレたちってこういうバンドだったっけ?」と誰かしらがなってきても不思議はありません。どうような状況や話し合いがあったのかはもちろんわかりませんが、これを4人が完全にやりきっている、このことがめちゃめちゃすごく思えてなりません。
それでもって背景の壁に張られた銀色のシートがなんとも切なくてね、これがまたいいんです。
いろいろ調べているともともとはこの曲の前に「A Million Ways」という曲のビデオがあって、それはただ裏庭で踊っているだけのものなんですが、これがまたとってもとっても良いのです。このビデオがインターネットで話題になり世界中に広がって、更にグレードアップした作品として「Here It Goes Again」が撮影されたという流れみたいで、これがさらなるブレイク引き起こしているってことみたいです。ウラジオストックのホテルでぼぉ〜っとしてるときにたまたま1回見ただけで衝撃を受けて、帰国後すぐにCDを買って、こうして興奮気味に文章を書いている私がそのわかりやすい例です。
そんな私も誰も思いつかないし思いついたとしてもやらないであろう色んなことをあみ出し、ライブやレコーディングでさまざまな実験をくり返してきたタイプのアーティストですが、この『OK GO』の「Here It Goes Again」を見て「うぅぅ、私なんかはまだまだただの中途半端のかたまりじゃないか」と痛感しました。しかし今後の私は違いますよ。“やりきる美学”これをテーマにいろいろ考えますよ。まぁ、そう簡単にはいかんとは思いますが。
【YouTube】というすごいサイトでは、MTVの番組か何かで、これをライブでやっている映像も見ることができます。完全にやりきったあとの4人は非常に美しいです。
2006/11/17
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