No.027
『お風呂には入れないで』
さぁ〜、解禁になりましたボジョレ・ヌ−ヴォ。なんだかすごいですね。どこもここもボジョレ、ボジョレ、ヌ−ヴォ、ヌ−ヴォで、新聞によっちゃぁブッシュ大統領来日よりデカく載ってたものもありました。間違って“ブッシュ・ヌ−ヴォ”なんて書かれてないか心配になるくらいの勢いです。私としては一応軽く専門の分野ですし、せっかくの機会ですから基本的事項をさらっておきましょう。
『ボジョレ/Beaujolais』とは、フランス・ブルゴーニュ地方の最も南に位置する『ボジョレ/Beaujolais』地区で産するワインの総称。白ワインも少しありますが、ガメイ種を原料とした赤ワインが圧倒的に多く、廉価で一般大衆に好まれ、赤ワインではめずらしく少し冷やして飲むと良いとされています。「nouveau=新しい」という男性単数の形容詞がついた『ボジョレ・ヌ−ヴォ/Beaujolais Nouveau』とはその新酒。フランスのワインは収穫から2年くらいかけて熟成し市場に出るのが通例ですが、このヌ−ヴォはできたての新酒。時間的な流れとしては、地域や畑によって差異はありますが、今年は9月上旬から収穫が始まり→仕込み→10月下旬までには新酒ヌ−ヴォができあがったようです。収穫年に新酒を早飲みする習慣は19世紀からあるそうですが、販売の解禁日が設定されたのは1951年。85年から現在の「11月の第3木曜日」となり、今年はそれが昨日11月17日だったわけです。
日本の大手運輸会社のパリ支店に勤める友人の話によると、販売解禁日の1週間前がフランス国外への“出荷解禁日”。この前日までにすべての手配を完了し、販売解禁日までの1週間ですべてのボジョレ・ヌ−ヴォを注文先に届けなければならないこの時期は、年を通じて最も忙しい数週間だそうです。しかも、今年の日本へのボジョレ・ヌ−ヴォ輸出量は過去最高。リヨン、パリの空港はもちろん、アムステルダム、ルクセンブルグ、フランクフルトなどからの日本直行便の他、モスクワ、中国、台湾、マレーシア、シンガポール、アメリカ経由便等、それこそ考えられるルートをすべて使って空輸された、そんなすごい状況だったそうです。
大学時代、銀座のレストランでアルバイトしていた84〜5年頃、すでにボジョレ・ヌ−ヴォは一部で話題になり、そのお店でも出してましたから、私の知る限りでもこの時期恒例のイベントして20年以上は続いているわけです。恐るべきはやはりこのボジョレ・ヌ−ヴォを「うむ、これは流行る」と見込んで日本に持ち込み仕掛けた人の先見の明と実行力でしょう。またやはりこの「ヌ−ヴォ」っていう響きも良かったのかもしれませんね。同じパターンでイタリアワインの新酒「ノヴェッロ/Novello」ってのもあるんですが、「ノヴェッロ」か「ヌ−ヴォ」かっつったら、やっぱ「ヌ−ヴォ」がステキでしょう、響き的に。やや性的な感じもしますし。そこに輪をかけるような「解禁」ってフレーズにもそそられます。
しかし、ワインは大好きで各国各地域、結構広めに飲んできた私なんですが、いまだにこのボジョレ・ヌ−ヴォ、なにがどうしてそんなに盛り上がれるのかイマイチわからないんですよね。いや、ボジョレ−自体はなにかと飲み易いですし高くないんで、パリでも東京でもふつうに飲んでるんですけどね。こと「ヌ−ヴォ」になるといきなり大盛り上がりするのはなんなんでしょう。もちろん、“なにがどうなってこうだからこのくらい盛り上がる意義と価値があるのだ”とハッキリ認識し自覚を持って盛り上がってる人なんかいないとは思いますが、どうあれ、これだけの盛り上がりは不思議です。
とそんな感じで「へぇ〜」と思いながらなんとなくテレビを見てたら、箱根のある温泉施設で期間限定『ボージョレヌ−ヴォ2005風呂』ですと。露天風呂に特設されたなぜかボルドータイプの大きなワインボトル型の給湯設備からお湯が出てきて、そこにボジョレ・ヌ−ヴォを投入、ワイン色に染まったお湯につかり香りを楽しむんだそうです。入ってる人たちは確かに楽しそうで結構なんですが、これ、ワインの作り手が見たらホント泣きたい気持ちになるでしょうね。私たち音楽家に例えれば、一生懸命作ったCDをまとめ買いされて封を開けたと思ったらいきなりみんなスッパダカになって『CDの叩き割り大会』が始まっちゃったようなもんですから。どんな大会かはわかりませんが。
と、書いてるうちになんだかやりきれない気持ちになっちゃったんで、今日飲もうと買ってきたボジョレ・ヌ−ヴォはやめて、今夜はイタリア・ピエモンテ州の『ヴァルフィエリ・ノヴェッロ/VALFIERI Novello』にします。普段ワインをお飲みにならない方こそ、どうぞこの機会に『ボジョレ・ヌ−ヴォ』を飲んでみて下さい。飲み切れなくてもお風呂には入れないでね。
今夜はノヴェッロ
2005/11/18
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