No.020
『ベン・フォールズを聴く』
お楽しみいただいている“たま金コラム”も第20回。やっと20、でもまだたったの20、予想通りっちゃ予想通りなんですが、結構たいへんですね。これを毎週ず〜っと続けると考えるとめまいがしますが、げろや下痢、二日酔いならよく知っていますが、“めまい”というものはこれまでの人生で体験したことがないので、それがどのような感覚なのかわらないのでそういう意味では気は楽です。このサイトのアクセス数の集計を見ても明らかに金曜日が突出していますので、きっとこのコラムを楽しみにしていただいているハイブローな方が多くいらっしゃるのだろうと思うと、書き続けることに充分な意義を感じます。そんな第20回、たまには音楽がらみの話を。
ヘッドフォンがどうも好きになれない私は車の中でCDを聴くことが多い、というかほとんどです。まぁ、正直いって音はあまりよくないですし、聴く位置も右寄りなんですが、周囲を気にせず音量を出せるし、気が向きゃ大声で歌えるのがいいです。私のかっこいい車にはCDが6枚も入るナウなプレーヤーがついていて、その6枚は随時なんとなく入れ替えられるわけですが、たとえば今週の6枚は「Chaos and Creation in the Backyard / Paul McCartney」「Craig David / The Story Goes…」「Dimanche A Bamako / Amadou & Mariam」「I♥U / Mr.Children」「ことたび ロシア語/ 白水社」そして「Songs for Silverman / Ben Folds」です。
この「Ben Folds」実はちゃんと聴くのは初めてなんです。ってゆうか、90年代後半に登場した「Ben Folds Five」の頃から、「KANちゃん、ベン・フォールズ・ファイヴ聴いた?すごいよ、聴いたほうがいいよ」といろんなところでいろんな人に言われ、私の場合、そう言われれば言われるほど聴きたくなくなる性格だってこともありましたが、正直言うと“聴くのがコワイ”というかそんな感覚がありまして、見て見ぬふりをしていた、そんな感じです。もちろんラジオ番組に熱のこもったリクエストがきたりしたときには、かけましたし、かける以上その曲周辺を聴きはするんですが、ちょっと聴いただけでもたしかに“うわ、すごいかも”って感じで腰が引け、自分でCD買って聴くってことはしませんでした。ジャケット写真に霊が写ってるわけでもなく、ある曲の間奏部分に霊の声が聴こえるわけでもなんでもなく、なにがそんなにコワイのかって、よくわからないとは思いますが、うぅ〜んなんというか、今それを聴いてしまってそのすごい才能を目の当たりにすると、いきなり自信を喪失してしまうんじゃないか。今、“正しい・いける”と思ってやっていることを自分で否定してしまうようなことになるかもしんない、とそんなコワサみたいなのがあって、聴いてなかったんです。うぅ〜、よくわからないでしょう。
例えば、彼と結婚しようかななんて考えてる女性が、ある時すごい素敵な男性に会ってしまい、相手はいつもこっちを向いてるし、もし今私がそっちを向いてしまったら今までのことがなにもかも無茶苦茶になってしまうかも、でももうそんな状況に耐えうるエネルギーはないし、そんなことを考えていること自体もうそっちに向かっているのかしら、でもその先の保証はなにもないわ、ただの思い過ごしよ、ね、そうよね、でも好きなのかも、とにかくこわいの、こわいのよぁ、あぁぁぁぁぁ…みたいな? ・・・や、違いますね、そんなんじゃない。
仕事の先輩や同僚が「すごいすごい、一度いったほうがいい、絶対いくべきだ」と、なにかにつけてニタニタ話しているファンタジックなお店。聞けば聞くほど行ってみたい、行かずにはいられない、英語で言うなら「can’t help myself from -----ing」だ。 しかし、もし今そこに行ってしまったらもう、金も時間もすべてをそこにつぎこんでしまって、長くつきあっている彼女も放ったらかし、オレはもうわけわからん状態になってしまうかもしれん、そんな状況が目に見えている、だめだ、絶対行っちゃだめ、だめなっんっだ〜〜、あぁぁぁぁぁぁ…みたいな? ・・・いや、コレもなんか違います、ってゆうかじぇんじぇん違う。
ま、とにかく聴いてみたい、聴いてみなきゃとは思いながらもずっと聴けなかったんですよ、精神的に。で、今回、ポール・マッカートニ−さんの新作を買いに渋谷のHMVに行った時に、ふと目に入ったベン・フォールズ。なぜか“よし聴こう”と思えたので、するっと買ってきました。いや、別についにベン・フォールズを聴く自信がついたわけでもなんでもないんですよ。自信なんつったらそんなもんほんとにないです。年々ころりよおころりよ減る一方です。でもだいじょぶです、そんなもん最初っからないんですから、そういう生き物なんですから、私の場合。で、ベン・フォールズの最新アルバム「Songs for Silverman」聴いてるんですがね、うぅ〜ん、すごいです。すごいすごいって言っても、うわっ、ものスゴ!というものではなく、さら〜っと上質、そう質ですね。質(しち)じゃないですよ、質(しつ)。30年前の純情なアメリカンポップスを聴いているような、「なんでもないっすよ、別に」風の質感というか、うぅ〜んうまく表せませんがいいんです、音楽ですから。とにかくやはりなんかうわさ以上のすごい才能を感じます。
90年代後半にビリー・ジョエルの初期の2枚「Cold Spring Harbor」と「Pianoman」をCDで買い直して改めてじっくり聴いた時もうっすらと思ったことではありますが、このドラム・ベース・ピアノだけで作る=「DBP形式」、これからの音楽人生でいつかは必ずひとつのかたちを作っておかなくてはならない、ピアノ系アーティストとしての基本的で重要な課題、ではないか、という気がしてなりませんし、またその課題を今あらためて提示されたような気がしてなりません。
そういえば、このコラムが掲載される9月30日は「ベン・フォールズ」日本公演の最終日、東京厚生年金会館じゃないですかね。もちろんチケットは残ってないでしょうけど。残ってても行きませんけど、まだ。まぁ、しばらくはゆっくりじっくり聴き続けます。
2005/09/30
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