No.422
『冷し担々麺を集中的に食いあさる』
さて、突然ですが今週は“冷し担々麺”です。
“冷し担々麺”の前にまず、温かい“担々麺”について書くべきですが、残念ながら私はまだ本場のそれを食べたことはありませんので聞いた話をつなげて書きますと、“担々麺”の名の由来は、中国内陸部の四川省の省都・成都の市場など、人が集まる場所で、天秤棒に“担いで”売り歩いていたことから、“坦々麺”と呼ばれるようになったそうで、それは唐辛子と山椒の効いた甘めの醤を麺に和えて食べる、汁のないものだそうです。
そんな担々麺を、四川料理を日本に広めた陳健民さんが日本人好みにラーメンスタイルにアレンジしたのが、私たちが親しんでいる“担々麺”だということは、前にも書いたことがありますかね。
他国から伝わった料理が、その国の歴史・風土や食習慣に合せて変化しながら定着する“食の現地化”についても前に書いたことがありますが( コラムNo.093)、とりわけこの“担々麺”の現地化は、その本場出身の料理人が自ら日本化させたということですから、それは極めてダイレクトで“意志ある現地化”であると思います。
が、しかし、“冷し担々麺”についてはどうなんでしょうか。
元来、中国では冷たい料理は食さないと聞きますし、私のこれまで約18回の訪中でも、冷たい料理は見たことがないような気がします。
すでに充分一般的になったと言える日本の“担々麺”を、今度は冷して食べてみよう、という発想はきっと“冷し中華”に起因するものだということはほぼ明らかですが、じゃぁ、そもそも“冷し中華”ってのは、なにがどうなってそうなったのか。それは“担々麺”とはまた別の現地化の経緯があったのではないか。もしかするとそこには韓国伝来の“冷麺”の影響があるのではないか。・・などと思いを巡らせながらネットでねっとり調べていましたら、その発祥にはなんだかいろんな説がいくつもあったもんですから、だんだんめんどくさくなってきまして、だいたいこの時期そんなことに時間を費やしている場合ではないんジャマイカ・キングストン。ということになったので、さっさとやめにしました。
が、いやしかし、“冷し担々麺”というものが複数の段階を踏んで更に現地化された食べ物であることには間違いないだろう、ってことで、この金コラのネタ作りの目的も兼ねて、集中的に食いあさってみることにしました、というわけです。では、どうぞ。
まずは過去に掲載したことのある写真ですが、それは私が初めて食べた“冷し担々麺”。去年6月の金沢、TRICERATOPSのライブに“和田シャー”として出演した深夜、さんざん飲んだあげくにベースの林くんと入ったラーメン店で、酔った勢いで面白半分に注文したら、あら、意外といいんじゃないの? となりました。多めのキクラゲがエフェクティヴでした。
ここから先は、ついこの2週間くらいに食いあさったものです。次は【楊州商人】目黒本店。思えば去年、いやもっと前の夏からメニューにあったような気がしますが、初めて食べてみました。唐辛子の鮮やかな赤色が食欲をそそります。“冷し担々麺”という響きから想像するに最も近いイメージにほのかな酸味が加わって、おいしゅうございました。
つづいては、全国的に展開する大手飲食チェーンのカジュアルブランド【万豚記】の飯倉店。メニューには“冷し黒ごま担々麺”とありましたが、見た目には白ごまがたっぷりかかっています。きっとタレに黒胡麻が練り込んであるのでしょう。麺は極太でかなりのアルデンテ、辛みもアグレッシブ。ナウでヤングでガッツな味わいです。
アンニュイなマダムで賑わう自由が丘。ちょっとオシャレな中華料理店【香旬】のそれは、オクラと水菜が上品な、ちょっとよそいきな趣。が、しかし、容赦なく辛かったです。器もお値段もちょっとよそいきですが、充分においしゅうございました。
再び目黒です。日本化した担々麺になんらかの定義があるとすると、それは、練り胡麻の風味と肉味噌でしょうか。ここ【麺屋百式】権乃助坂店のそれは、胡麻の風味は充分ですが、のっているのは肉味噌的なものではなく、蒸し鶏でした。どっちかっつうと“棒棒鶏冷麺”というほうがネーミングとしては的確な気もしますが、これはこれで完成度の高い逸品でした。
最後は札幌・狸小路6丁目の【坦々亭】。よく歩く通りですし、かなり前からこのお店の存在は知ってましたが、入ったことはありませんでした。しかし、集中食いあさりの今週、この看板の張り紙が目に入ったからには、素通りするわけにはきませんよ。
“陳建一 秘伝のたれ”ですよ。よっしゃよっしゃ〜。これは期待も大です。迷わず入店し、私としてはめずらしく、メニューも見ずに「冷し担々め〜ん!」とディレイをかけたイメージでコールしました。果たして給されたそれは・・・
おぉぉ、豪華です。水菜・錦糸卵・きゅうりにトマト・蒸し鶏に叉焼2枚。そんでもって、海老がどぉ〜ん!です。お箸で探ってみると、肉味噌的なものもちゃんと中央内部にのってます。しかし、見た目的には正直あまり担々麺感はありませんよ。いやぁ、しかし、これはたいへんにおいしゅうございましたですよ。
前面に押し出さぬも練り胡麻の風味は充分に味わい深く麺に絡み、上品な甘味と酸味、後半になって徐々に攻めて来る辛みも強すぎず、ひとつひとつが丁寧に調理された具材のバランスもほぼ完璧と言えるでしょう。ネーミング的には“五目冷し中華 胡麻風味”が的確だとは思いますが、父・陳健民さんによって日本化され愛される“担々麺”を、その息子である鉄人・陳建一さんの秘伝のたれで食べるわけですから、そういう意味でも必ず食べておかなければならない“冷し担々麺”なのかもしれませんね。
正直言うと“担々麺”ってのは、どこで食べても結局なんだか同じような気分になることが多かったので、あまり好んでは食べてこなかった私ですが、これが“冷し担々麺”となると、同じ呼び名でありながら、店によって解釈も趣もいろいろ違って、たいへんおもしろうございました。
はぁい、というわけで、今週はここまでです。
中国の簡体字では【担担面】で、その拼音は【dan dan mian】ですから、それをカタカナで表すと、どちらかというと「ダンダンミェン」ですかね。「ダンダン」をまっすぐ短く弱めに、「ミェン」を上からおろすように強く発音してください。そこんとこよろしくお願いします。
2013/08/23
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