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Friday Column

No.314

『シークレットゲストについて考える』

ここ数年、“シークレットゲスト”というフレーズをなにかと多く耳にしますが、皆さまはこの件についてどのようにお考えでしょうか。“シークレットゲスト”という言葉が多く使われ、その語の響き自体にさほどの“シークレット感”を感じなくなってきたことは、多少のまぎれはありながらも私の中では事実であります。とかなんとか言っちゃって、去年のツアーの全公演にたいへんに素晴らしいシークレットゲストの皆さんに出まくっていただいたのは、まぎれもない私なんですけど。えぇ、それはそれは楽しかったですし、たいへんにありがたいシークレットゲスツの皆さんでした。

そうでありながらも、“シークレット・ゲスト”という語を多くの人があまりなにも考えることなく一様に解釈し納得し始めている現実に、あえて、なかば無理矢理にでも疑問を投げかけてみよう、というのも私の性質でもあります。

例えば、去年11月の【星屑の隙間に木村基博】に登場した“カンジェラ”は、シークレットゲストと言いながらも、それは明らかに自分自身での仕込みでありましたので、そんな自分自身をどうにか納得させるために、コンバースのかかとを4.5cm底上げした“シークレット・コンバース”を履くことで、自分の中での“シークレット・ゲスト”のあり方を見いだしました。・・って、意味わかんないでしょう。それでもいいんです。たいへんに高度で精神的な話ですから。

そんなおり、日本で最もカッチョイイ3ピースロックバンド・TRICERATOPSのアコースティックライブシリーズ【12-Bar】に、シークレットゲストととしての出演依頼がありました。もちろんそれはうれしいことですから快諾し、出させていただきますが、それでも私は考えます。

事前発表はしないものの、本番のステージに登場して「シークレットゲストはKANさん!」と紹介され「こんばんは、KANです!」と名乗る、その時点で、それはもはや“シークレット”ではないのではないか。ということは、TRICERATOPSのみんなにごく普通に「KANさん」と呼ばれようとも、お客さんから「KANさ〜ん!」と声がかかろうとも、肯定せず、かといって否定もせず、自身の存在が何であるかは決して明かしてはならない“秘密”であり、それを厳守することこそが“シークレットゲスト”の真の在り方なのです。

それはつまり、あくまで“シークレットゲスト”としてTRICERATOPSとともに数曲演奏してステージを去った後に、「今の人はいったい誰だったんだろう?」という疑問が会場全体を包んでこそ、“シークレットゲスト”としての役目を真に全うしたと言えるのです。

はぁい、というわけで演ってきました。5月19日(木)東京・西麻布のSWEET EMOTIONでの“真のシークレットゲスト”。えぇ、たいへんに楽しかったですよ。私は“シークレットちゃん”として後半に登場し、TRICERATOPSのデビューシングル曲『Raspberry』ではなぜかギターを弾き、『悲しみの役割』をみんなでハモり、『Milk & Sugar』をブリブリ歌ってきました。


TRICERATOPSとシークレットちゃん (撮影:山本倫子)

演奏の都合上、仮面は途中でとりましたが、私は断じて“私はKANである”ということ肯定せずに“シークレットちゃん”を押し通してステージを去りました。きっとその後、お客さんの中で「さっきの人、キアヌ・リーブスでしょ?」「キアヌが来るわけないじゃん」「じゃぁ誰よ」「ウェンツくんじゃない?」「いや、今のは福山雅治だよ」なんて会話が飛び交ったことは間違いありません。そんなことも含めて、お楽しみいただけましたでしょうか。

・・・と、ここに書いた時点でそれは“シークレット”ではなくなってしまいました。あぁぁ、オレもまだまだだな。ま、とにかく、このライブの模様は以下のサイトで御覧いただけますので、よろしければどうぞ。
http://ototoi-tct.jugem.jp/?cid=4

ところで、またじぇんじぇん別の話ですが、今回のようにライブやイベントでの“シークレットゲスト”ってのは今やめずらしくないことですが、では、飲み会に“シークレットゲスト”ってのはどうでしょうか。ほとんど聞いたことがないのではないでしょうか。だとすると、どうしてもやりたくなってしまうのもまた私の性質であります。

それは4月のある日、【昭和音大】のコンサートでギターを弾いてもらう菅原龍平くんと、コンサートに向けての打ち合わせと称した飲み会をやろう、だったらヨースケ@HOMEくんも呼ぼうってことで決めた飲み日の2日前、菅原くんと一緒にいたスタジオに、たまたまトータス松本くんがいるというので、ボブのヅラをかぶって久々に会いました。

トータスくんは私のヅラに軽く戸惑いながらも、「KANさん、前々から言ってるメシ誘ってくださいよ」と言ったので、「じゃぁ、あさって」と言うと、「あさって? あ、ボク空いてますよ」「じゃぁ、飲もう」ということになり、そこで「じゃぁ、ヨースケくんにはトータスくんが来ることを言わないから、シークレットゲストとしてちょっと遅れて登場してよ」と言うと、「なんですかそれ、飲み会にシークレットゲストって、意味わからんわ」とトータスくんは言いましたが、とにかく、ちょっと昔の劇画の探偵風に、ハットにマスクにレイバンのサングラス、トレンチコートの襟を立てて、30分遅れて登場することを勧めました。

2日後の飲み会はカジュアルで小粋なトラットリア。菅原くんとコンサートでの演奏各曲のギターのアプローチなどを打ち合わせた後、ヨースケくんと3人でスプマンテを飲みがらのエロトークの熱が徐々に上がり始めた頃、他のテーブルのお客さんも含めてフロア全体の空気がピタッと止まりした。

ふと気づくと、ハットにマスクにレイバンのサングラス、トレンチコートの襟を立てた、ちょっと昔の劇画の探偵風の男が私たちのテーブルの脇に無言で立っていました。

そのように登場を勧めた私でさえ、「え? 誰?」となってしまうほど、トータス松本くんの“シークレットゲスト”としての登場は完璧なものでした。

そのあまりの完璧さに声も出ず腹を押さえて笑う私と菅原くんとは好対照に、未だ状況が飲み込めずにいるヨースケくんは、依然立ちはだかる探偵風の男をじーっと10秒ほど見つめて、やっと小声で「ト・・、トータスさん???」と言いました。飲み会当日の数時間前に、たまたまじぇんじぇん別件でトータスくんと電話で話していたヨースケくんは、なおさら意味がわからなかったようです。

「トータスくん、すげぇ、完璧」と絶賛すると、「だって、あれだけ言われたら普通に登場するわけいかんでしょう」とテレながらもやや満足げでした。というわけで、初の飲み会シークレットゲストを含む4人で男子会。マジな音楽の話を1割ほど含みながら、9割がたは水野真紀さん・蒼井優ちゃん・佐々木希ちゃんなどの話で夜は更けました。


飲み会初のシークレットゲストはちょっと昔の探偵風

コレをお読みのみなさんも、飲み会・打ち合わせ・会議に遠足。いろんな場面にシークレットゲストを仕込んで、まわりをあっと言わせてみてはいかがでしょうか。

2011/05/20



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