No.312
『KAN×昭和音楽大学管弦楽団 前半』
はぁぁぁぁぁぁぁぁ、終わりました、【KAN×昭和音楽大学管弦楽団】。観に来ていただいた皆さま、ありがとうございました。お楽しみいただけましたでしょうか。いやぁぁぁぁぁ、たいへんでしたけど、それだけに私はすごく楽しかったです。なにしろ、ツアー中の2月からの約40日で、約16曲のオケを書きましたから。こんなこと初めてですし、よくがんばったと思いますので、よしよしよくがんばったね、とホメてください。
去年秋の【星屑の隙間に木村基博】とはまた別の意味で、私の音楽活動に於いてたいへんに重要な経験となった今回のコンサート。ある程度まとまった文量になると思いますので、今週・来週と2週にわたって振りかぶってみたいと思います。別ウィンドウに演奏曲目を表示していただき、それを見ながらのほうが読み進みやすいかと思います。では、どうぞ。
01. まゆみ
オーケストラの混沌としたチューニング音の中から曲につながるオープニングは、いわゆるThe Beatlesの『Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band』のオープニング、そのままです。オーケストラと一緒に演奏する上で、まず思いついた何のヒネリもない最も順当なやり方です。なので1曲目は音楽的にThe Beatles中期の作品を目指した『まゆみ』となったのです。CDのレコーディングは、Aメロのピアノ以外はすべてコンピューターで制御されたシンセサイザーやサンプリング音源による(以下、打ち込みと表記)で、発表からの約19年間、バンド・弾き語りと幾度も演奏してきましたが、今回初めて全生で演奏できたことは非常にうれしかったです。個々のフレーズはすでに固まっていましたし、去年秋に『僕らの音楽』で秦基博くんと共演した時に、ちゃんと考えたストリングスの譜面もありましたので、編曲は比較的短い時間で終わりました。っつっても“比較的”ですけどね。
02. キリギリス
一昨年・去年と、ピアニスト・国府弘子さんと昭和音大管弦楽団とのコンサートを観て、「次はオレがやりてぇ」と思った時点ですでに頭の中で選曲されたのがこの『キリギリス』。CDでは、ピアノとストリングス、そしてオーボエ・ダモーレ以外は打ち込みで録音しました。今回の編曲は、ストリングスを少し変えたくらいで、あとはほぼレコーディング時と同じアレンジですが、打ち込みで録音した楽器については譜面が存在しませんので、管楽器・打楽器系はすべて新たに書き直し、そんなうちに微妙にフレーズが変化した部分もあります。
03. 香港SAYONARA
このコンサートが決まったのが、去年の夏くらいだったでしょうか。それから構成・選曲はず〜っと考えていましたが、この曲は今年に入って1月も半ばになった頃に、学生さんのソロを複数やれる曲が必要だという考えから、選曲しました。この曲では、河村カースケさんのドラムに絡むマリンバ・シェイカー・クラベス・タンバリンなどの打楽器が重要な役割を担います。イントロ・エンディングのトランペットのソロに加え、間奏部分はサイズを倍にして、クラリネットとフルートのソロを作り。後半はCDには入っていないファゴットやストリングスのアレンジを新たに施しました。
04. 月海
これも『キリギリス』同様、この話が決まる前から是非やりたいと決めていた曲のひとつ。ストリングスがバンドに乗っかる場合は、1st Violin・2nd Violin・Viola・Celloの4パートで構成するのが一般的ですが、この曲では、右ストリングスと左ストリングスの大きくふたつに分かれたパートが、上になったり下になったり、時にはユニゾンしたり、という、あくまえヘッドフォンで聴くことを前提としたアレンジメント。CDではすべてシンセサイザーでの録音でしたが、これを生でやりたいというのは、この曲を発表した98年からの念願でした。
【世界の国歌】
まず、なぜ国歌なのか。当然のことながら私の曲を中心に構成するこのコンサートでありながら、やはり昭和音楽大学管弦楽団のみの演奏を聴いていただくコーナーも存在させるべきだと考えます。しかし、クラシックの名曲をやるのでは、私はただそれを見てるだけの司会者になってしまいます。そこで、過去から札幌のラジオ番組で『シリースでお送りしてます世界の国歌のコーナー』をやっていたように、私の趣味のひとつである国歌を、複数のCDを聴いた私が、私の解釈で編曲して演奏してもらうことで成立するのではないかと考えました。
05. ロシア連邦国歌
数ある国歌のなかで最も好きなメロディのひとつ。ロシアに強い影響を受けて製作した99年のアルバム『KREMLINMAN』発表後のツアーでもオープニング曲として、偽パイプオルガンで演奏した曲(ま、それは事前に録音したものですが)です。スターリン時代の1944年に国歌に制定され、ソ連崩壊後のエリツィン政権時に一旦別の曲が国歌となりますが、プーチン大統領が「やっぱこっちでしょう」とソ連時代のこの曲を国歌として再制定します。作曲はアレクサンドル・アレクサンドロフ。札幌のSTVラジオにあっためちゃくちゃ古いアナログ盤の音源を元に、強いロシア・美しいロシア・広いロシアを、荘厳かつ繊細に表現しました。
06. イスラエル国歌
私の知る国歌の中で最も悲しく美しいメロディ。モルダヴィア民謡をサミュエル・コーヘンさんが編曲したそうです。今回のアレンジは、98年の長野オリンピックの時に発売された、小沢征爾さん指揮による新日本フィルハーモニーのCD音源の影響を強く受けています。
07. タジキスタン
他曲との曲調のバランスを考慮し、アゼルバイジャン国歌とどっちにするか迷いましたが、コントラバス・チューバなどの低音楽器のラインがおもしろかったので選曲しました。これもSTVにあった古いアナログ盤の影響を受けた編曲です。
08. イメージ国歌
それがどこの国歌であるかは、指揮者・演奏者にすら伝えず、コンサート内で『クイズ・国歌でポン!』として、お客さんに正解を当ててもらうという企画。しかし、それはどこの国でもない、自作の『イメージ国歌』なわけですから、当たるわけなどなく、会場全体から爽やかなヒンシュクをかいました。もとは2000年に福岡でやっていたテレビ番組『星の種』のコーナージングル用に作曲したもので、その時点で頭の中では曲全体が出来上がっていましたが、番組用には冒頭の4小節のみシンセで録音しました。それを今回、全編フルオーケストラ用に編曲して完成させたものです。音楽的には、ロシア・フランス国歌の影響を強く受けたゲルマン風のイメージ。
09. 海のチンゴゴ
2004年の帰国後、最初の作品。同じ事務所に所属するアイドルユニット“美勇伝”のイメージショートフィルム用の音楽を依頼されて作った、海のシーンのBGMです。最初は『Recuerdos de la Alhambra(アルハンブラの思い出)』のような、ギター1本だけで演奏する独奏曲を作りたかったのですが、作曲途中で1本だけではやっぱ無理だとあきらめ、メロディと伴奏の2本のギターでの曲に変更。ってことは“ゴンチチ”でしょう、わかんないけど。ということで、それ以降は“ゴンチチみたい”なイメージで作り進み、結果この様なタイトルになりました。今回のコンサートではポピュラー科の伊藤くんとジャズ科の山崎くんの2人が演奏してくれました。
と、このような解説をいちいち挟みながらのコンサート前半は、60分でおさめるつもりでいましたが、やはりしゃべりだすとすすんで横道に逸れるのが私ですし、そこで生まれたわかりにくいギャグをひとりで深追いするのもまた私ですから、終わってみれば90分も経ってました。ひゃっひゃっひゃっひゃっ。
はい、というわけで今週はここまで。来週はコンサート後半を振りかぶりたいと思います。
しかし、何かをやるごとに反省点がたくさん出てきてしまうのもまた私の性格でして、今回もたいへんに楽しかったコンサートの余韻に浸るのも束の間、すでに多くの明らかな反省点に包囲されています。しかしそれは「次にやる時は」という意志を前提にした反省であるわけですから、私は「コレをもう一度やろう」と明らかに決意しているのです。
ま、そんな反省点は自分自身が忘れないためにも、来週まとめて書くことにしますので、よろしければおつきあいください。
2011/05/06
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