No.165
『パイロットとスチュワーデス 再び』
洞爺湖サミット終わっちゃいましたねぇ。いまいち盛り上がりませんでしたが。ニコラ・サルコジがメドベージェフさんに巴投げされるところとか見たかったんですけどねぇ。もうみんな帰っちゃったのかな? はい、そんなわけで、たいへん遅くなりました。森田恭子さん責任編集雑誌【LuckyRaccoon】のライブイベント【ラッキーラクーンナイト2】に出演した『パイロットとスチュワーデス』ついて書きます。08年5月末に東京・大阪で開催されたこのイベントがどのように楽しく素晴らしいものであったかについては、7月4日に発売になった【LuckyRaccoon vol.28】を御購入いただき、じっくりお読みいただくことをお勧めするとして、このページでは『パイロットとスチュワーデス』の演奏内容について解説したいと思います。
2006年11月の【ラッキーラクーンナイト1】に出演するために結成された、私とMr. Children・桜井和寿くんによる『パイロットとスチュワーデス』。以下、桜井くん=機長、私KAN=チーフパーサー略してチーパーということで書き進めます。
M1. マイウェイ (機長:Vo, Gut Guitar / チーパー:Pf, A.Guitar, Cho)
私が機長に是非この曲を歌ってほしいと提案したら快く受けてくれたので、早速札幌STVのレコード室で国内外の様々な歌手による『マイウェイ』や『My Way』を10数曲集めてCD-Rに焼いて渡したところ、その中のジブシーキングスによる『My Way(スペイン語題:A Mi Manera)』が機長を強く刺激してしまったようです。「最初はピアノでゆったり歌い上げ、だんだん盛り上がって、最後はオーライラライ、オーライラライ♪に持っていく」という機長のアレンジ案を基にリハーサルでいろいろ試してみます。何度かやるうちにオーライラライ♪に行くところは私もピアノなんか弾いてる場合じゃなくギターを激しくかき鳴らしたい気持ちになり、そうしました。そんなアレンジが固まってくるころに今回の衣裳“闘牛士とカルメン”が決まっていくんですが、その経緯については後ほど書くとして、闘牛士に決定したことから、まずカルメンの衣裳を着たチーパーが単独で登場し『闘牛士のマンボ』のフレーズをモチーフにしたピアノのメロが『しるし』のイントロに変わったところで機長(闘牛士)がかっこよく登場、という流れを作りました。すっごくわかりにくくてイイでしょう。
M2. 50年後も (機長:Vo, A.Guitar / チーパー:Pf, Cho)
私の1999年の作品。昨年末の雑誌の対談で「もう、ぼくの歌になっちゃいました」と言っていたように、すでにバッチリ歌い込みカラダに染み付いた機長による歌唱でのこの曲を客観的に聴くのは、前回の『世界でいちばん好きな人』同様、たいへんに興味深いことです。間奏後のBメロからサビにかけて3度上のハーモニーをつけました。
M3. 抱きしめたい (チーパー:Vo, Pf / 機長:E.Guitar, Cho)
機長率いるMr. Childrenのセカンドシングルで1992年のアルバム『KIND OF LOVE』に収録されている作品。耳コピしていたコードをリハーサルで若干修正し、ほぼオリジナルに近いコード進行で演奏しました。リハーサル初期段階で機長は、シンセギターを使ってストリングスの音色をミックスしたりなどいろいろ試していましたが、最終的には【Epiphone CAIOLA】というあまり見たことのないセミアコにトレモロやハーモナイザーでエフェクトを施しプレイしました。
M4. いつでも微笑みを (チーパー:Vo, Hand Bell / 機長:Vo, Hand Bell)
機長率いるMr. Childrenの2002年のアルバム『IT’S A WONDERFUL WORLD』に収録されているこの曲は、今回最もリハーサルに時間を費やしました。3月末の和食会議で、“口笛パートをお客さんに吹いてもらって会場全体がひとつになる”的なイメージを提案したところ、「ハンドベルとかどうですかね」という案が機長からあがり、「とりあえずリハでやってみよう」ということで【ウチダのミュージックベル】をレンタル。レンタル会社のウェブサイトには「我流の演奏と指導者がついた場合では、ベルの持ち方や演奏に対する自信も含め、見た目にも大きな差があります。」と書いていたものの、「若くて綺麗なおねぇさん講師が来る可能性は低そう」という推測から、我流特訓に決定しました。まず、ベル用の楽譜をおこし、それぞれの音が連続することをなるべく避けるように2人用に振り分けます。合わせを繰り返すうち、それぞれの担当音を若干トレードしたりしなから最終的に、私(チーパー)の担当音は下から<A/B♭/B/D/D♯/F/F♯/C/C♯>、機長の担当音は下から<G/C/C♯/E/G/A♭/A/B/D>の9音ずつ、合計18音。両者両手をフルに使っての演奏なので、必然的にボーカルマイクはヘッドセットということになりました。機長は更に欲を出し「足でバスドラとタンバリンを鳴らす」と言い出したので実際にやってみたりもしましたが、「これは無理でしょ、じぇったい無理、おれはヤダ」と反対しました。というわけでハンドベルの練習を千本ノックのようにひたすら繰り返します。リハーサルでは両者合わせての練習が可能ですが、それぞれの担当音を自宅に持ち帰っての歯抜けの個人練習はやればやるほど不安で胸がおっぱいになり、ある日機長に「あのさぁ、ハンドベルさぁ、やれると思う?」と探りの電話をしたところ、「いや、だいじょぶですよ、すごくいい感じになりますよ」との男らしい意志を確認できたので、つきすすみました。リハーサルではお客さまの口笛がどのくらいのものになるかはイメージするしかありませんでしたが、これが本番では予想以上に素晴らしく、印象深い演奏になりました。
M5. 弾かな語り (機長:Vo / チーパー:Vo)
06年11月の【LRN1】の時に、機長のアイディアを基に共同で完成させたパイスチュ唯一のオリジナル曲は、楽器を一切使わないデュエットナンバーです。困難を極めるハンドベル演奏の直後ですから、もうこの曲がたいへんにやりやすく感じました。そんなこともあって、前回よりも更に繊細な歌唱表現ができたのではないかと思います。
M6. 永遠 (機長:Vo, A.Guitar / チーパー:Pf, Cho)
私の1991年の作品。オリジナルに近いピアノのみの伴奏でワンコーラスを歌唱し、その後、ジャンジャカジャンジャンジャカジャンと8分の12の波打ちギターストロークが入り、それに伴いピアノも4と10にアクセントを置いたアルペジオに。そこに機長がブルースハープをなにげにワンフレーズ。2コーラス目からはビートルズの『Norwegian Wood』、いやむしろビリー・ジョエルの『Piano Man』的なグルーブを感じながら演奏しました。
とまぁ、今回の『パイロットとスチュワーデス』の演奏曲はそんな6曲でした。
で、衣裳の話。“闘牛士とカルメン”とフレーズ自体は思えば去年のいつごろからか会話の中に出てきてたような気もしますが、しかし『パイロットとスチュワーデス』なんですからやはり『パイロットとスチュワーデス』の衣裳で登場するべきでしょう、という基本合意は一旦なされていたものの、前述の『マイウェイ』のアレンジが完成し、曲の最後に「オーレ!」と叫んでしまった以上は、「やっぱ、闘牛士ですかねぇ」「着るべきかなぁ」という話になり、つまりあくまで音楽的発想から衣裳は“闘牛士とカルメン”に決定していったのです。スタッフの一人からの「森田さんには内緒ですすめたほうがいいですよね」という問いに、「そのほうがいいでしょうね」と私は自然に答えました。発売中の【LuckyRaccoon vol.28】の中で森田さんはこの件を“プチどっきり”と表現していますが、私たちからすればそれはいわゆるひとつの“小さな思いやり”です。解釈はどうあれ、「ぼくは、ただやらされてるだけですからね、ホント、ホントに」という姿勢を決して崩そうとしない機長の頑なさもまた、ある意味・逆に・ある反面、凛々しさであり、その凛々しさこそが闘牛士の本質であり機長のあるべき姿なのです。
はい、そんな感じですが、うまく伝わりましたでしょうか。いやぁ、今回もほんとに楽しく多くを学んだ『パイスチュ』でした。またやりたいです。次なる【LRN3】開催もすでに発表されていますが、今度は単身・KANとしての出演です。何を演るかは考え中ですが、何を着るかはもう決めてます。お楽しみに。
そんな私は【弾き語りばったり #7】ツアー終盤です。広島・福岡・鹿児島公演を観てくださったみなさん、ありがとうございました。今週末12日・13日は東京公演です。よろしくお願い四面楚歌。
※写真提供:LuckyRaccoon 撮影:岡田貴之
2008/07/11
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