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Friday Column

No.154

『旅先なのに日常』

げ、今日でデビューして丸々21周年じゃないですか。私の音楽活動を支えてくれている皆さま、ありがとうございます。これからも23年、29年とよろしくお願いします。

先週はそんな私の読みにくさ100%のローマ字コラムにおつきあいいただいた皆さま、ありがとうございました。さぞ目がお疲れになったことでしょう、それもまたいわゆるひとつの狙いどおりです。

さて、今週は普通の日本語で「やっぱ、パリは楽しいよなぁ」と振り返ってみたいと思います。帰国後初、3年9ヶ月ぶりのパリだったんですが、ずっと変わらずここに住んでたような居心地のよさと言うか、やはり最も好きな街のひとつです。何が良いって、すごく人間らしいと言うか人間臭いと言うか、過剰な競争をせず、適当なところで進化が留まっていて、あくまで人間主導の社会と言うか、考えてみりゃ当たり前のことなんですが、最新機器の最新性能に依存するどころか、へたすりゃコントロールされてるんじゃないかと思ってしまう東京生活者の私には、なんか人との普通のコミュニケーションがたいへんに楽しく感じてしまうのです。外国語だからってのもありますけど。

今回は「あぁ、フランスだなぁ」と感じられる具体的な事例がありましたので書いてみます。ポルトガル・リスボンに向かう4月11日、パリ14区・モンパルナスというところからシャルル・ド・ゴール空港行きのエールフランスのバスに乗ります。モンパルナスの発着場からはパリの南郊外にあるオルリー空港行きと、パリの北東にあるシャルル・ド・ゴール空港行きの2つのバスが出ています。

この話は別ウィンドウで以下のサイトを見ながらお読みいただくほうが想像しやすいと思います。
http://www.cars-airfrance.com/
ページが表示されたら、まず右上のプルダウンメニューで日本語を選択してください。日本語表示になったら、下線下の薄い文字『路線』をクソック、次に路線『4』をクソックして、表示された『モンパルナス→リヨン駅→シャルル・ド・ゴール空港』の案内ページを見てください。これと同じ内容の案内がモンパルナスの発着場にも5カ国語で掲示されています。

さてなにがどう「あぁ、フランスだなぁ」なのか。御覧いただくとわかるように『空港→モンパルナス』は朝7時から夜21時まで、逆方向は朝6時半から夜21時半まで、その下の「Féquence toutes les 30 minutes」とは「30分毎に運行」という意味です。これが日本ならばこの欄に「毎時00分、30分に出発」とか「所要時間:約70〜80分」くらいは書かれてあるのが常識です。しかしここには毎時何分に出発するのかも、所要時間も書かれていません。エールフランスバスに言わせりゃ「だって道路の混み具合で1時間で着くのか、1時間45分かかるのかはわかりませんよ。それに乗るべきバスが着かないことには発車できないんですから、毎時何分なんて決められません。そりゃそうでしょう、運転してるのは機械ではなく、人間なんですから」とそのようなことなんだと思います。

次に上部の路線地図を見てください。シャルル・ド・ゴール空港はたいへん大きな国際空港で、ターミナル「1」と「2」があり、その「2」は「2A〜2F」の6つの建物に別れています。その構造もちょっとわかりにくく、「E – C - A」や「F - D - B」の横移動、また「E - F」間は、徒歩でも可能ですが、「C・A」と「B・D」間はターミナル内の循環バス出なければ移動できません。そしてエールフランスのバスは、まず「AとC」の間に停まり、次に「EとF」の中間地点に停まり、「BとD」の間に停まります。その後の「ターミナル1」が終着折り返し点だということは、この図ではうまく説明できてないようです。そして、シャルル・ド・ゴールにはこれとは別に「ターミナル3」も存在し、利用者も多くいますが、「ターミナル3」が存在すること、また「このバスは3には行かないよ」ということに、ここではひとことも触れていません。

料金表示はわかりやすくていいですね。4人以上は15%割引です。しかし実は学生割引があるということは書かれていませんし、私も今回始めて知りました。

そんなことをふまえて4月11日、モンパルナスからシャルル・ド・ゴール空港行きのバスに乗った時のことを思い出して書きます。バスの乗り場に着いて、荷物をのせる係の男性に「次のバスは何分後ですか?」と聞くと「えぇ〜っと、25分後ですね」と、どうやら行っちゃった直後だったんだなってことでおとなしく待ってましたが、25分経ってもバスはやってきません、まぁそりゃしょうがないです。あんまりこないんで待ち客もどんどん増えてきました。45分くらいしてやっとバスが来たので乗りました。私は視界が開けている乗車口すぐの一番前の席が好きで、いつもそこに座ります。さぁ、ここからが長いんです。

白いワイシャツに紺のネクタイ・紺のVネックセーターを着た運転手さんは、30代後半くらいかと思われる大柄の白人男性。乗客は「ボンジュール!」と運転手さんに直接お金を払って、片道の場合はレシートを、往復の場合はカードを受け取ります。この時、ほとんどの乗客は「2Dには停まりますか?」などなにかしら運転手さんに尋ね、「はい、3番目の停留所です、マダム」と運転手さんは対応します。自分がどこのターミナルで降りるべきかは、航空券を良く見れば必ず書かれているんですが、それを事前に把握してない人の方が断然多く、「ブリティッシュ・エアはどこのターミナルですか?」「ええと、それは2Dです、ムッシュー」と運転手さんが応えると、「えぇ?ホント、2Bじゃないの?」と別の客が言い、運転手さんが脇から小さい本を出して「えぇ〜っと、ブリティッシュ、ブリティッシュ・・」と調べ「あった、2Bでした」「ね、そうでしょう、ビックリしたわ」「お詳しいですねマダム」「で、私は2Bでいいんですね」「はい、そうですよムッシュー、3番目の停留所です」・・・みたいな会話がいろんなバリエーショで複数繰り返されます。国際空港行きのバスですからフランス語がわからない乗客もいます。

料金を知らぬまま乗って来た夫婦は、「いくらですか」「15€です」と聞いて、二人で15€だと思い込み、払って乗り込もうとしますが、「お待ちください、おひとり15€ずつ、二人で30€です」「えぇぇ、ひとり15€なの!?」と大げさに驚いたりしています。

今度は友達同士で旅行している風の学生が乗ってきました。「学割があるって聞いたんですけど」「学割?」「はい」「えぇ、ありますよ」「いくらですか」「えぇ〜っとぉ」とまた小さい本を見て、「ひとり12€、みんなでじゃなくてひとり12€ですよ」。

乗車口の外から「ターミナル3には停まりますか?」と聞いた紳士は、運転手さんの最初の「ノン」だけを聞いて、別のバスを探しに行こうと歩き出しました。運転手さんはあわてて「ムッシュ、ムッシュ」と呼び止めますが聞こえず、仕方なく運転手さんは運転席を出てバスを降り、紳士を追っかけて連れ戻してきました。「ターミナル3には停まりませんが、最初の停留所2A・2Cで降りて、そこから空港内を循環する “Navett”というバスに乗り換えてください」「最初の停留所で乗換ですね」「はい、そうですムッシュー、15€です」。

今度は女性客が英語で「“easyJet”はどこのターミナルですか?」との乗ってきました。再び小さい本を開きますが、格安航空会社“easyJet”はどうやら乗ってなかったらしく、運転手さんは「う〜んとわかりません、チケットをお調べになっては」と言っていたので、私が「2B(ドゥ・べ)ですよ」というと、「御存知ですか?」「えぇ、私も“easyJet”に乗りますから」ってことで、運転手さんはフランス語で「2B(ドゥ・べ)だそうです、マダム」というと、英語の女性にはよくわからなかったらしく、運転手さんは「トゥー・ビー」と英語で言い直し、「OK、Thank you・・・じゃなくてメルシー」と女性は乗り込みました。すると私のすぐ後ろに座っていた男性が小さい声で「2B・・・、2B・・・、To Be or Not To Be」とダジャレを言いました。そしてどうやら自身のダジャレの納得度が時間とともに高まって来たらしく、数分後にもまた思い出したように「To Be or Not To Be」と私の背後で反復したので、私も長い間継続して静かにウケてました。

観光シーズンなのか、前のバスからの間隔が空いたせいもあってか、運転手さんが車内を確認すると座席はもうすべて埋まってしまい、高速道路を走るバスなので立ち乗車はできないってことで、数人のお客さんはこのバスに乗れず、次を待つことになりました。50数名の乗客がやっと全員乗り切るまでかかった時間はなんと丸々30分です。最初のほうに乗った私は、乗客と運転手さんのやりとりを30分飽きずに間近で見てました。大きなドアがプシューっと静かに閉まり、さぁ、やっと出発という時に、通路を挟んで私の反対側=運転席の後ろに座っていた老夫婦は、発車まであまりに時間がかかったので飛行機の時間が気になったのでしょう、運転手さんに聞きました「あのぉ、オルリーまでは何分くらいかかります?」「え?オルリー?、いえいえ、このバスはシャルル・ド・ゴール行きですよ、ムッシュー!」。おぉぉ、そりゃたいへんだ、プシューッと再びドアが開いて老夫婦は慌ててバスを降り、運転手さんも降りて、遠くで煙草を吸い始めた荷物係の男性を呼び戻して老夫婦のトランクをおろしました。乗客もみな「ふぅぅぅ〜、良かったわよね、気づいて、ねぇ」ってな感じで妙に和やかな雰囲気になったりして。

果たして30分以上待ってシャルル・ド・ゴール空港行きのエールフランスバスはやっとモンパルナスを出発します。この時もまた後ろの男性が「To Be or Not To Be」と言っていました。車を走らせると運転手さんは携帯電話でどこかと話をしています。よく聞くと、もうモンパルナスで満員になっちゃったので、本来停車するべきリヨン駅に行っても誰も乗せらんないから、直で空港行っちゃいますよ、ってことみたいで、バスはいつものルートとは違いさっさとパリの外環道路へ出て、空港へぶっ飛ばしました。・・・ということは、リヨン駅で空港行きのこのバスを待っていたお客さんは、来るべきバスが来ず、さらに待ちぼうけをくらうわけです。そのぶんだけリヨン駅での待ち客はどんどん増えているはず、その待ち客がモンパルナス始発の次のバスに全員乗れるという保証はどこにもありません。

飛行機の時間が迫ってる人だったらたまったもんじゃないでしょうね。でも、少なくともこのバスの中には腹を立てているような人はひとりもいないようです。ね、楽しいでしょう、例えばこれがあるひとつのわかりやすい「あぁ、フランスだなぁ」と思える出来事です。それは道路状況だけではなく、出発前の乗客の乗り具合や運転手さんの対応によっても所要時間に大きく幅が出るわけです。乗客が少なくさっさと乗って混んでなければ空港まで1時間、お客さんが多くて道が混んでりゃ2時間。だから時刻表なんてあっても無意味なんですね。フランスを代表する航空会社エールフランスの空港バスがこの状況、それも私が知る2000年頃から基本的にずっと同じ感じってのもいいですね。

これがパリでなく、ニューヨークや東京だったらどうでしょう。エールフランスよりも時間に正確なバスを運行する会社を立ち上げようとする人が出てくるでしょう。まず、複雑でわかりにくい空港図やバスの路線図をできるだけわかりやすく表示し、各ターミナルに発着する航空会社をすべて表示し、それを見れば自分がどこで降りるかくらいはわかるようにする、なんてことは難しくないでしょう。それでも運転手さんに尋ねてくる人には、すべてが書かれた案内のチラシを1枚渡せばいいだけです。さらにバスのチケットも窓口か券売機があって、待っている間に買っておけば50数人の乗客が乗り込むには5分もかかりません。更にこの区間内を走る車輛をもう1台増やせば時間通りの運行も可能です。そこにはもちろん時刻表があり定刻運行なので、みな無駄な時間を過ごさずに空港へ到着できます。そして料金をエールフランスより1€だけ安く設定すれば、まぁ誰だってこっちのバスに乗るでしょう。

そんなことくらい、誰だって考えつきますよね。私たちのような競争の激しい社会では、資本金さえあればエールフランスより良いバスを走らせるのは難しいことではありません。そう、その“競争”が緩いんですね、フランスは。だから適当なところで進化が留まり人間臭さが保てるんでしょう。これが国の政策か国民性かは私はわかりませんけど。例えば、事前にチケットを買って、自分の降りるターミナルもわかって、さっさと乗り込むとします。それは便利です。しかしどうでしょう、その場面から乗客と運転手さんの会話が消えてしまうのです、なにも聞くことないですし。日本で空港行きのリムジンバスに乗る時に運転手さんに「こんにちは」と言ったことはありますか? そんなこと言ったらちょっと不自然にすら思えます。うぅん、これは悲しいことです。もちろんこれは東京に暮らす私の見解で、古き良き日本の風情が残る小さな街では、乗る時に「こんにちは」「はい、どうも、こんにちは」なんて会話が当たり前に交わされているであろうことを望みますが。

コンビニだってそうでしょう。お客さんが店に入ると店員さんは必ず「いらっしゃいませ、こんにちは〜」と高らかに言います。それに対して客は「こんにちは」とは言いません。これって悲しいことですよ。フランス人が見たら「なぜ無視したの、なぜ?」と思うでしょう。だから自身の「いらっしゃいませ、こんにちは〜」に何の意義も感じなくなってしまったコンビニの店員さんは、自動ドアが開く時の電子音にただ反応して「いらっしゃいませ、こんにちは〜」と1日何百回も繰り返し、とうに挨拶としての機能を失い効果音になってしまった「いらっしゃいませ、こんにちは〜」が、私がよく利用するコンビニではどう聞いても「りょっしょんすわぁ〜」としか聞こえないものに変形してしまっていることはずっと前のコラムに書いた気がします。こないだなんか、もう「りょっしょんすわぁ〜」が「るりっちゃ〜ん」になってましたよ。ここまできたら私が勇気を持って「こんにちは」って言おうと思ったとしてももう無理です。

数年前、駅の券売機の前で財布を持ったま静止している老紳士がいたので、「何かお困りですか?」と声をかけたら、右手でふっと払いのけられました。去年のある雨の朝、ゴミを出しに外に出たら、若い女性がザァザァ降りのなか傘もささずに顔をこわばらせて歩いて来たので、「どうぞ」とビニール傘を差し出したら、ヒュッとよけられました。私は軽い変態ってことです。まぁ変態っちゃぁ変態かもしれないのは否定しませんが、この場合はちょっと悲しいですよ。東京生活者は、見知らぬ他人との不意のコミュニケーションにはなんらかの危険性を無意識に感じてしまうようになっているのかもしれません。

えぇっと、なんの話でしたっけ。そう、フランスです。フランスでは、それがカフェであっても洋服屋さんであってもスーパーのレジであっても必ず「ボンジュール」、それに対してこちらも自然に「ボンジュール」。そんなよ〜く考えりゃあたりまえのことがうれしく思えてしまう東京生活者の私の人間性は「りょっしょんすわぁ〜」レベルで変形しているのかもしれません。

えぇぇとですね、こんなこと書くつもりじゃなかったんですよ。ただ久しぶりのフランス・パリは楽しかったのよ、って言いたかっただけなんですけど。日本は良くないなんて言うつもりもありませんし、日本は日本で他のどこにもない素晴らしい国だと思います。私の音楽作品やコンサートを楽しみに待ってくれている多くの方がいらっしゃる自国を好きでないわけがありません。フランス・パリだって生活すりゃ困ったこともたくさんあります。競争ゆるいんで物価さがんないですし、来るはずの小包はいつまでたっても来ないし、サーバーなんてしょっちゅう調子悪くなりますし、電圧不安定なんで炊飯器も米が炊ける前に勝手に保温に切り替わってたりもします。ここで最も大きな問題はそんな状況にイライラしてしまうか楽しめるかということです。私は幸い楽しめるタイプでした。

いやしかし今回はホントに不思議な旅行でした。2年5ヶ月生活してたわけですから、旅行で来ているはずなのに、そこはついこないだまでの私の日常の風景なんです。だからバスに乗っても地下鉄に乗っても、旅行である意識がないというか、へたすりゃ住んでたアパルトマンに帰るバスの乗り継ぎを頭の中で考えたりしてる瞬間もありました。それは福岡に帰るいわゆる“里帰り”とはまたじぇんじぇん違う感覚で、旅先なのに日常という私にとってのなんだか新感覚です。またそれを味わいたくなったらパリに行くと思いますが、いやしかし私にはその前に行っておかなければならない未知の国『トルクメニスタン』があるではないか、ということを急に思い出して今週はおしまい。パリでの写真1枚見てください。ちょっと喉が渇いたんで軽く飲んどきました。


これもまたひとつの日常

2008/04/25



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