No.133
『ミシュランガイド 東京』
はい、発売になりましたベスト盤『IDEAS 〜the very best of KAN〜』、もうお聴きいただいてますでしょうか。今回のベスト盤は初回盤セルフライナーノーツも含めて全編にわたり私が中心となって構成しましたので、すみからすみまで長くお楽しみいただける1枚になればと思っています。出したからにはお聴きいただいた皆さまの感想などいろいろ聞いてみたいところではありますが、このサイトは書き込みの余地がない一方的な作りにしてますんで、どうすればいいですかね。現実的にはSTVラジオの『KANのロックボンソワ』宛にメール・お便りなど送っていただけると、大きなタイムラグもなく確実にすべて読ませていただけるので、よろしければそちらのほうに感想・御意見・賛辞・ダメ出しなどお送りください。このベスト盤に関する私の意図・見解は、もう少し時間をおいて書こうと思っています。
それとはじぇんじぇん別の話なんですが、今月は曲の依頼が複数あって、という話をしていましたが、うち2つが発表になりました。私の所属するアップフロントエージェンシーのお嬢さん方による“ハロー!プロジェクト”の、安倍なつみさんと矢島舞美さん(ºC-ute)がデュエットをすることになって、“16歳と26歳のデュエットソング”というテーマで2曲、歌詞も含めて私が書いたんですが、いやぁ、やはり私の世代には私の世代なりの“女の子アイドル観”みたいなものがありまして、それはなにかというと、女の子アイドルってのは“ただかわいいだけでしょ”ってことで世間的には決して尊敬される存在ではなく、そんなアイドル自身は「わたし、もう泣いちゃうかも、グスン」みたいなカヨワさ・ハカナゲさを常に放っているもので、それに対して「そんなことないよ、ボクが守ってあげるからね」と男子諸君が束になって応援する、みたいなことなんですが、そのような私の世代のアイドル観をそのまま作品化したような2曲です。で、これがどちらも素晴らしくどっちをA面にするか決められない、ということに会議でなったようで、これら2曲のどっちをA面にするかを携帯サイトでみなさんに投票してもらって決定しよう、ということになりました。御興味のある方は当サイトの『最新情報』を御覧いただき、【公認!アップフロント着信。】にてロリコンパワー炸裂の2作品を聴きくらべて、あまり深く考えずにノリで投票してください。
この投票用の試聴音源はあくまで投票用に製作してもらったもので、実際にCDになる音源はこれから作ります。その録音も私がやりたかったんですが、いかんせんこの時期やるべきことが他にもたいへんに多くあるもんですから、信頼のおける2人のアレンジャー、小林信吾さんと添田啓二くんにそれぞれ1曲ずつ、私の作った基本演奏データを渡してゆだねることにしました。どちらがどっちをアレンジするかは、デモ音源を聴く前に歌詞だけを読んだ状態で「オレはこっち」と選択する方法をとりました。
さて、お知らせが長くなりましたが、今週は話題騒然の『ミシュランガイド 東京』について書こうと思います。今や世界のレストランの“格付け誌”という解釈になってしまった『ミシュランガイド』ですが、もとをたどれば、白いモコモコキャラクターでおなじみのフランスの有名タイヤメーカー『Michelin』が、1900年のパリ万博にあわせて、車を運転する人向けに自動車修理工場やガソリンスタンドなどを案内する無料配布の小冊子を作り、そこに近所のおいしいレストランなんかをのせ始めたのが時代ともに発展拡大し、今のような状態になったそうです。これまでヨーロッパ20カ国とアメリカで発刊されていましたが、つい先日その東京版が発売されました。だからといって買うつもりは別になかったんですが、私の専門分野のひとつであるレストランに関することなので、この金曜コラムには充分なネタですから、やはり実際に買って見てから書くべきだろう、と思って書店に行ったところ、あららららら、発売直後に売り切れで、予約をしても次の入荷は12月下旬だということで、まぁいいか、ということで帰ってきました。
パリ時代には友人が持っていた『ミシュランガイド』を見せてもらったこともあるにはありましたが、フランス語ですし、いまいちピンとこないというか、やはり、掲載店舗数は多くなくても、店内や料理の写真が載った日本の雑誌やガイドブックのほうがイメージしやすいですし、日本人の視点・感覚で選ばれ掲載されているほうが日本人的には情報として受け取りやすい、みたいな感じで、パリに旅行に来た友人にガイドブックや情報誌を置いてってもらってました。
だいたい極めて個人的な嗜好であるレストランを評価してスプーン・フォークや星の数で優劣をつけること自体がちょっと違うんだよなぁ、みたいな考えが私にはありますが、しかし“レストランに行く”ことはやはり特別なイベントで、だからこそハズシたくない、という方はどの国にも多くいらっしゃるでしょうから、そういう意味ではランクづけしてあるほうがわかりやすい、という考え方も理解はできます。当の『ミシュランガイド』だってもともとはそのような親切な発想での情報提供だったんでしょうけど、なんでもかんでもビジネスに結びつけようとするアメリカ的発想がそこに絡んできちゃった日にゃどうしようもないですね。そんなこんなで、今や『ミシュランガイド』の本来の意向にそっているかどうかは関係なく“格付け誌”という解釈になり、その“星”は名誉を越えて権威的な意義まで持ってしまったような気がします。
で、どうなんでしょう『ミシュランガイド 東京』。インターネットの記事を読んだだけで書いてますが、150店のレストランに“星”がつき、最高評価の“3つ星”獲得点は8店。ニューヨークの3つ星レストランは3店、本国フランス・パリでさえ3つ星は10店です。そこにきて東京に8店。「東京のレストランのレベルの高さに驚きの連続だった」とミシュランガイドのジャンリュック・レナさんもコメントしているようです。えぇ、そのとおりですよ、私はじぇんじぇん驚きませんでした。フランスをはじめ世界約30カ国のレストランを食べ歩いてきたインターナショナル・グルメ系・アーティスト(IGA=イガ)の私は、東京のレストランのレベルの高さは少なくとも4年前には実感・確信していましたし、その根拠はハッキリ説明できるものです。
まずは作り手について。日本人はなにしろ感覚が繊細で手先が器用ですから、フレンチもイタリアンも中華料理も、その本場の一流店で修行した料理人は日本に帰ってもその一流の料理を決して一流でないお値段で提供する努力を重ねています。パリで聞いた話ですが、フランスの星つき一流店で日本人調理師の雇用がどんどん増えている理由として「繊細・器用」の他に、「衛生感覚が非常に高い」「一度でおぼえる」という私たちにしては常識的と思えることも、特性として高く評価されているそうです。
食材について。海・山の豊富な食材に恵まれている上に、流通が特別に発達してますから、どこの土地であろうが素材が新鮮なのは今や当たり前の日本。極端な事を言うと九州でとれた魚がその日の晩には北海道で食べれるんですからね。“新鮮じゃない=許せない”くらいの感覚を持ってる人も多いでしょう。他の国では考えにくいことです。たとえば、国土の3方を海に囲まれ北はアルプスの麓に接する食材豊富なイタリア・フィレンツェのレストランで「今日は魚はなにがありますか」とたずねると「魚が入るのは火曜日だけです。サーモンならいつでもありますけど」みたいな感じ。これはフランスでも基本的に同じで、新鮮な魚を食べたいなら港町に行く、というのが常識的感覚です。海のない都市部では、魚は魚臭いくらいが魚っぽくていいってことです。
サービスについて。これも作り手同様「繊細・丁寧」という基本を性質として持っている日本人。また、西ヨーロッパと違い“お客さまは神様です”的発想が自然と根付いている上、耐える・忍ぶ精神を持つ日本人ですから、それだけでもサービスについては国際レベルでも上質だと言えるでしょう。基本単一民族という国柄も実は大きく影響しているような気もします。
いやぁ、なんだかよかったですね、これをお読みの日本人の方は“日本人で良かったなぁ”と改めて感じていることでしょう。しかし、ここまで書いた「一流の料理を一流でないお値段で」「特別に発達した流通」「お客さまは神様です的発想」、いずれも実は“過剰とも言える競争”の上に成り立っているのです。すべてのことをビジネスにして換金しようとするアメリカ式経済至上主義の上に成り立つ上質であることを無視するわけにはいかないのです。あぁぁぁ、せっかくいい気分だったのに一気にいやぁ〜な感じになっちゃいましたね。でもしょうがないです。また、ここに書かれていることはあくまで私個人の主観に基づくものであると思えば、たいして気にはならないでしょう。
まぁでもいいじゃないですか、今の東京のレストランが世界的に見ても非常にレベルが高いことは確信すべき事実ですし、それが『ミシュランガイド 東京』によって世界にアピールされるわけですし、そんな日本のレストランのおいしさを真に深く味わうことが出来るのは私たち日本人である、ということは間違いありません。
さてここから先は“星つきレストラン”についていろいろ書こうと思ってはいたんですが、ここまでがえらく長くなっちゃったのもありますし、引き続きインザミドルオブ忙しい時期なもんですから、コラムネタ温存の意味合いも含めて、この続きは来週ということにさせてください。そんな来週は新たに楽しめの発表が2つほどありますので、気にしておいてください。最後に話がいちばん最初にもどりますが、今週私が最も言いたいことは、ベスト盤『IDEAS』を是非聴いてください、ということです、だということを決して忘れてはならないのです。
2007/11/30
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