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Friday Column

No.147

『FAKIN’ POP』

さぁ気がつきゃもう3月です。やはり今年も予想通りに“さくらさくら”な楽曲が街中に流れる恭子の吾郎、いかがお過ごしで商科大学。うぅん、なんかこのテの書き出し、久しぶりです。さてそんな私は、2週間のブランク後のライブツアーが再開し、明日明後日の東京、来週は大阪・東京の追加と残すところ4公演となりました。どちらさまもよろしくお願いします。

今週は、3月12日に発売になる平井堅くんの新作アルバム『FAKIN’ POP』についていろいろと書かせていただきます。全13曲入りのたいへんに素晴らしいアルバムから私なりの特筆楽曲を取り上げて勝手にいろいろ書きたいと思いますが、まずは10曲目に収録される私自身初のプロデュース作品『Twenty ! Twenty ! Twenty !』の製作についてながながと解説したいと思います。

M10. Twenty ! Twenty ! Twenty !

お話をいただいたのは去年のたしか10月の終わりくらいだったと思います。港区にある私の所属事務所の小会議室に平井堅くん・マネージャーさん・J-WAVEの広阪さん・私・私サイドのスタッフが集っての小会議でした。平井堅くんは過去に私のライブを複数回観てくれていて、終演後の楽屋で挨拶を交わすことはありましたが、ちゃんとメンと向かってお話しするのはこの時が初めてのようなものです。思ってたとおりに背が高く頭が小さく、思ってたよりは色が白かったので、「色白くなった?」と聞くと「ここ数日、陽に当たってないからかもしれません」と言ってました。

依頼内容は、J-WAVEの開局20周年アニバーサリーソング第1弾を平井堅くんが歌うことはすでに発表されていましたが、その曲を是非私に作ってほしい、というもの。08年元旦からのオンエアーなので、期限的には遅くても12月末、録音作業をいろいろ逆算すると11月中にデモ音源を提出と、決して緊急ではない、ちゃんと製作期間を考慮したお話ですし、もちろんよろこんでやらせていただきます。曲調的には、たまたまこの時期の私は久しぶりに“ディスコもの”を作りたい気持ちに妙になっていたこともあり、そのような提案をしましたが、J-WAVE広阪さんからはバラード方向的意見もあったものですから、では、デモを2曲つくりますんで、それから再度話し合いましょう、という極めて前向きな姿勢を提示しました、曲についてはね。しかし、正直、歌詞についてはねぇ、私の場合、いつ何が書けるのかまったくわかんないもんですから、年内=つまりこの2ヶ月で書けると言い切れる自信がありませんので、その場合は平井くんに書いてもらうとか・・、という話をしたところ、いやいやいやいやまぁまぁまぁまぁとにかくやってみてから、みたいなことでその場は一応まとまりました。この時点で私は「まぁ、歌詞かけなきゃ平井くんと共作という手もあるだろうし、なんとかなるでしょう」と思っていましたが、後で聞いたら平井くん的には「いいえ、絶対すべてKANさんに書いてもらわなきゃヤダ」だったそうです。打ち合せを終えた夕方、車で家に着く頃には“J-WAVE20周年”というキッカケからなんとなく“Twenty !”だな、みたいなものは漠然と浮かんでいて、それも「トゥウェニィ」ではなく「とぅうぇんてぃ」な感じだな、みたいな感触も生まれていました。

デモ音源提出までに1ヶ月はありますが、なんせこの時期はちょうど“安倍なつみ&矢島舞美”の曲、それも歌詞も含めて2曲というのを必死こいて作っていた最中なのに加えて、ベスト盤『IDEAS』発売に向けてのプロモーション、丸の内ライブの自主リハ、そんな時に限って車のブレーキの調子が悪かったり、ブータン旅行のための経由地インド入国ビザを申請に行ったら大使館が移転してたり、それでもゴルフはやったりと、暗くなったら働かないフランス式の私が高度成長期の日本人のようにガムシャラに働きまくり、もう頭の中がいっぱいいっぱいおっぱいぱいな状態でしたが、なんとかがんばって“ディスコ”と“バラード”の2曲のデモ音源を録音し、予定よりは数日遅れの12月第1週に提出しました。この段階で“ディスコ”のほうには『Twenty ! Twenty ! Twenty !』と仮タイトルがつき、かろうじてサビまわりだけ「Twenty ! Twenty ! Twenty !」と歌われていて、もうひとつの“バラード”についてはまだなにも言葉がない状態でした。私としてはどっちでもおもしろくなりそうだと思ってましたが、最終的には平井くん本人の“ダンチョーの思い”での決断で“ディスコ”に決定します。

というわけで、レコーディングのスケジュール調整ですが、平井くんは目に見えて忙しく、二人のスケジュールが合う日はもう数えるくらいしかないじゃないかとなり、しかも古いタイプのミュージシャンである私は、一緒に作品をつくる以上、その前に一緒に酒を飲んどかないといけません。とこの時点で事前飲み会とレコーディングスケジュールはほぼ決まりました。逆算するとレコーディング初日までに10日間、歌詞完成までに22日間しかありません。ひゃぁぁぁぁぁ、いやしかしアレンジはだいじょぶです。デモ音源製作でベーシックな演奏データはすでに作ってありますし、あとは頭の中に鳴っている音を整理してデータ化し、ストリングスやブラスの譜面を書く、という作業的な時間との戦いなのでがんばればなんとかなるでしょう。自分の作品は自分一人で録音しているものも多くありますが、正直、人様のレコーディングですから、やっぱり小林信吾さんにサポートしてもらったほうが安心か、という思いもあるにはあったんですが、幸運にもスケジュールが合わず、よっしゃ、じゃぁ私ひとりで責任もって録音させていただきましょう、ということにしました。

イメージ的には80年代のイギリスのヒットメーカーズプロジェクト“ストック/エイトキン/ウォーターマン”的サウンドを目指し、ベーシックトラックは打ち込みでストリングスは生で、ギターを部分的に入れて、ブラスはシンセでやったほうがいいかなと思っていましたが、平井くんからの強い要望で生ブラスに決定。テナーサックス・アルトサックス・トランペットの3管でダビングし、後に高音部にサンプリング音源を付加混合してブライト感を出しました。私のストリングスアレンジは、同じコード進行上に歌とは別のもうひとつのメロディを作曲するというスタイルをいつもとっており、今回も例外ではありません。12月15日・16日の2日間でオケ録音を終了。それとは関係ありませんが翌朝、羽田空港到着寸前で人生初の“ガス欠”を体験しました。

で・・・、問題は歌詞です。ホントにオレは書けんのか、と、これはもう20年おんなじこと繰り返してます。ディスコですから、あくまで言葉がメロディに乗った時の響き=語音感を最優先に考えながら少しずつ言葉を埋めていくうちに、なんとなく曲の全体像が見えてくるという私流のやり方で日々少しずつ書き進みます。私自身のレコーディングであれば、作詞途中の段階は誰にも見せないんですが、やはり依頼された人様のレコーディングですから「やってますよぉ」という状況を報告する意味もあって、細かく歌詞の進行状況を送ったりもしました。そんななか、言葉の意味的にも響き的にもどっちもありだなと思える部分は歌詞フレーズを複数提示して、あくまで歌唱する本人が歌って気持ち良いフレーズを選択する、という“プルダウン方式”も数カ所取り入れました。で、なんとかがんばって歌入れギリギリまでネバッテネバッテ歌詞が完成します。

それにしても“人の歌入れ”やるってのは楽しかったですね。歌入れ=ボーカルダビングってのはホントに繊細で神経質な作業ですし、だってリスナーの皆さんが聴いてるのはストリングスでもブラスでもなく“歌”ですから。そんな“歌入れ”の日に録音した“歌”がその後ず〜っと残っていくわけですから責任重大です。だから自分の歌入れとなるとたいへんですぐクヨクヨしてしまいますが、“人の歌入れ”は初めてでしたが、それはそれは私だって責任重大ですが、いやいや楽しかったです。「ちょっと語尾がフラットしちゃったかなぁ」とか「もうちょっとグィ〜ンと伸びる感じでもう一回」とか「いいねぇ、いいですよ、いいんだけどもう一回」とか、そんな感じで細かく注文つけながら録音していくわけですが、いやしかし、平井堅くんはホントに素晴らしい優れたシンガーであることを実感します。だって注文をつければつけるほどどんどんどんどん良くなるんですから、私なんかはすぐ煮詰まっちゃってメソメソしますよ。なもんですから、やはり更に細かいところまでこだわりたくなるわけで、例えば“Trendy”の“Tr”の発音とか、ちょっとした小コブシのニュアンスとかまでいちいち注文をつけましたが、そんなことにも平井くんはちゃんと応えてきっちり自分の歌にするセンスとテクニックを持ち合わせていますから、とってもポップでヤングでトゥウェンティなボーカルトラックが録れました。「燃えてメラメラ〜ァァァ」の部分では、23歳以来封印してきたという“表のA”=わかりやすく言うと“裏声ではない高いラ”もがんばって歌っていただきました。翌日、Dメロ部分のやや複雑なコーラスをダビング、そして12月29日、トラックダウン完了、果たして『Twenty ! Twenty ! Twenty !』は完成しました。

と説明するとこんな感じですが、とにかく聴いてみて下さい。
では、平井堅くんの新アルバム『FAKIN' POP』その他の収録曲から、私なりの視点聴点での特筆楽曲をいくつか。

M03. 君の好きなとこ
このアルバム収録曲の中で最も好きな曲のひとつは、私たちの時代のJ-POPの王道的8ビートが心地よい作品。「切りすぎた前髪」「抱きしめた温度」「ハの字になる眉」など(こうしてそのフレーズだけを切り取って書くとニュアンスが伝わりにくいですが)、丁寧に選別された言葉で愛しい人の“好きなとこ”を表現する歌詞は非常に繊細で、またメロディにのった語音感もたいへんに優れています。

M04. キャンバス
空前のストリングスブームだと言える昨今の日本ロックポップス界。このアルバムにも生のストリングスがダビングされた楽曲が多くありますが、なかでも冨田恵一さんによるこのストリングスアレンジには特別に秀逸な美しさを感じています。またスタンダードなスロウナンバーでありながらアグレッシヴなグルーブ感に富んだドラムもカッチョイイです。今手元にミュージシャンクレジットがないので、これが生ドラムか打ち込みかは聴いただけでは判別できない私ですが、打ち込みだとしたらスゲェです。

M05. Pain
メロディ・歌詞ともに、さらっと入ってなんとなく聴き進める曲ですが、知らず知らずのうちに歌詞は悲しくヘヴィになり、メロディやその歌いまわしも感情味が激しくなる秀作。そしてこの曲をプロデュースしたベーシスト・亀田誠治さんのベースプレイの強力さ加減は特別に際立っています。後半の展開部からはこのタイプのミディアムバラードでそこまでやりますか的な重音フレーズを連発し、一旦リタルダンドして戻った最終サビでもその手を緩めることはなくさらに激しくベース4弦の音域をフルに移動します。そんな“これでもかベース”をねじ伏せるかのような平井堅くんの息継ぎも許されぬほどのボーカルも圧巻。そんなアレンジャー・ベーシストとボーカリストの曲内戦が「I can never escape from this pain」で終結する感じがたまりません。

M09. 哀歌(エレジー)
シングルとして発表された時もすごい衝撃でしたが、スタイリッシュでリスキーなブラックコンテンポラリーナンバーと善良なJ-POPナンバーが絶妙なバランスで混在するこのアルバムに於いてのその存在感いや威圧感はキャリズマティックです。私のようなタイプにはどう転んでも、首が360度回転しちゃうようなことが起こって書けないであろう楽曲。ジョージ・マイケルが歌うのも聴いてみたいし、坂本冬美が歌うのも聴いてみたい、そんな “枠”を明らかに逸脱している作品。

M13. 写真
アルバム最終曲は、亡き御父上を思って作られたスローナンバー。美しく静かに光る海の情景が浮かびます。「こういうパーソナルな曲をアルバムに入れるのはちょっとエゴなんじゃないかなぁ、ってすごく迷ったんですけど、でも、ふっと自然にできた曲なんで、いれてもいいかなぁと思って、入れさせていただきました」とは本人談。ピアノ、ストリングスと共に“せーのドン”で録音したそうで、歌の呼吸に合わせて演奏されたであろう高質な緊張感に満ちています。

他にもいろいろね、『君はステキ♡』や『UPSET』を聴くと作曲意欲がぐいぐい湧きますし、『美しい人』は限りなく美しいし、やっぱ『POP STAR』でしょ、ねぇ、って感じもしますし、と書きたいことはまだまだあるんですが、もうすでに7日(金)のお昼前なのでこの辺でアップさせていただきます。とにかくいいアルバムができました。「できました」なんて私が言うのはおかしいですが、この非常に内容の濃い、秀曲揃いのアルバムの製作に1/13ですが加担できたことをたいへんうれしく思っています。平井堅くんの新アルバム『FAKIN’ POP』は3月12日発売です、皆さまも是非。


レコーディングはいつも緊張感ピリピリだ

2008/03/07

平井堅 オフィシャルウェブサイト http://www.kenhirai.net/



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