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Friday Column

No.093

『食の現地化を考える』

今回はのっけからクイズです。
パリ12区・ベルエアにあった日本食レストランの看板です。
さて、なんと読みますか?



先日、「KANくん好きそうなの載ってるよ」と教えてもらって買った『ニューズウィーク・日本版』に“ここが変だよ寿司ポリス”という記事がありました。海外に誤った解釈の日本食レストランが多く、「正しい日本食文化の普及をめざす」という目的で日本国政府による“日本食の認証定制度”が設けられたという話題から、アメリカのある新聞は「気をつけろ!スシポリスがやって来る」と皮肉った、というレポート。世界各国の日本食レストランの変なメニューを実際に食べて検証するなんて特集も載っててかなりおもしろかったです。国際社会をリードするべき日本が、このようなどちらかというと勘違い的な制度を設けることについては、設ける側にもなにがしかの事情があることでしょうから私がなんやかんや書いてもあまり意味はないのでやめておくとして、いち国際派グルメ系アーティストとしての見地からちょろっと書いてみることにします。

数週前、テレビ東京のニュース番組で前出の『ニューズウィーク』とほぼ同じ内容の特集をやっていたのをたまたま見ていた時、そこに登場したなんらかの専門家の先生の“食は現地化する”いうフレーズが心に響きました。“食の現地化”つまり、その料理の発祥元がどこであれ伝わった先の気候風土・食材・生活スタイルから成るその土地の人々の味覚などから、料理はその土地に合った形に変化しながら定着するものである、という話。うん、まったくその通りだと大きくうなずけるコメントでした。実際、世界各国のいろんな料理を楽しめる東京、その外国料理の多くはとっくに現地化=日本化したものだと認められます。

例えば、日本化した中華料理の代表はなんと言っても「回鍋肉/ホイコウロウ」と「担々麺/タンタンメン」でしょう。中国に於ける「回鍋肉」、甜面醤と豆板醤をメインに味付けするのは日本と同じですが、豚肉と一緒に炒める野菜は地方やお店によって様々です。陳建民さんがこれを日本の家庭で楽しめるようにと試行錯誤した結果、安価で量が多く食感の良い“キャベツ”を使うに行き着いたのが、私たちの知っている「回鍋肉」であるという話です。「担々麺」は、芝麻醤と花椒のタレをかけた汁なし麺の丼を幾つも重ねて天秤棒で“担いで”朝市などで売り歩いたのがその語源。中国・四川省では現在も普通に見れる光景らしいです。これをラーメン大好きな日本人向けにスープ麺に改良したのが日本の「担々麺」、これも陳建民さんの作品らしいです。特に最近はこの担々麺を看板メニューにしたラーメン店がえらく多く、たまたま四川省からやってきた旅行者が街のあちこちにはためく「担々麺」ののぼりを見たら驚くでしょうね。実際に食べてみたりしたら「そうじゃないんだよなぁ〜」と首を傾げることでしょう。でもいいんです、私たちはそんな日本化した回鍋肉や担々麺が大好きなんですから。

イタリア料理に関してはもう現地化どころじゃありません。80年代初頭に『壁の穴』『はしや』などの茹であげスパゲッティ専門店が登場して以降、納豆・梅しそ・明太子と和風スパゲッティは今やなんの違和感もない、逆に飽きちゃったくらい当たり前のメニュー。私自身も家で作るスパゲッティは和風ものの方が多いような気がします。一見ふつうじゃんと思える『ボンゴレ・ビアンコ』だって実は白ワインではなく日本酒と長ねぎであさりを蒸して、仕上げに大葉をちらします。見た目ではわかりませんが、その内容は明らかに現地化したものです。『豚肉と高菜のスパゲッティ』には逆にパルミジャーノをぶっかけると妙に旨かったりするなんてのは、現地化のツバメ返しみたいなもんです。『納豆スパゲッティ』には沢庵を刻んで入れてるなんてのはもう絶対にイタリア人には内緒です。


現地化したボンゴレ・ビアンコ

最近はレストランで『生雲丹のスパゲティ』なんてのもよくみかけます。イタリア・シチリア島では雲丹を食べるところもあると何かで読みましたが、パスタに和えるのは聞いたことも見たこともありません。私はこれ大好きで、メニューに見つけるとつい注文したくなります。東京・世田谷区のある店では、雲丹と生クリームにトマトピュレを微量加えて軽い酸味と赤みを増してました。札幌のあるお店では胡桃を砕いたような小さい粒が入っていて、この香りと食感が雲丹に見事に合ってます。ここまで完成度が高くなってくると真剣に逆輸入できないものかと考えます。

逆輸入と言えばやはりテリヤキバーガーでしょう。ニューヨークではジャパンと言えば“TERIYAKI”ですよ。まぁ、行ったことないんでなんとも言えませんが。逆の逆輸入はアメリカ寿司の定番“カリフォルニア・ロール”、あれスゴイですよ。なにがスゴイって酢飯で海苔を巻いちゃってるわけですから、真の逆海苔巻きですよ。東京のお寿司屋さんでもやってるとこあったりしますからね。マヨネーズ入ってるんで私は食べれませんが。そんなアメリカの代表食ハンバーガーだってホットドッグだって元はドイツのもんですからね。そういう意味では“きんぴらライスバーガー”ってのはスコッと抜けてますし、最近は“海鮮かきあげライスバーガー”ってのもあるらしいですからもう、な〜にがど〜なってこうなっちゃったぁの〜です。

というわけで、どう考えても食の現地化をぐいぐい引っ張っている日本人である以上、外国に於ける日本料理についてなんやかんや言う筋合いは全くないのだという前提で、パリでの日本食事情はどうだったのかと思い出してみます。パリは都会なので日本食レストラン(Restaurant Japonais)を探すのにはさほど困りません。私の場合、お寿司なら北海道出身の御主人が握るサン・ルイ島の『勇鮨』、蕎麦ならサン・ジェルマン・デ・プレの『YEN』、うどんはサンタンヌ通りの『国虎屋』、どこも日本人が経営するお店です。サントノーレの『野田岩』で、うな重を食べながらブルゴーニュの赤ワインをちびちびやるのも大好きでした。

他にも日本食レストランは数多くありますが、私たち日本人が安心してくつろげるお店は数えられるくらいで、あとはみな外国人経営の“イメージ和食レストラン”、パリに住む日本人ならお店の外観をパッと見ただけで識別可能です。多くの場合は店先のテントに「SUSHI SASHIMI YAKITORI」と書いてある他に「MAKI」と書かれているところもあります。「MAKI」=手巻き寿司を含む巻き物のことで、パリのイメージ和食レストランでは、この「MAKI」が「SUSHI」とはまた別のあるひとつのジャンルとして存在しているようです。パリではすべてのメニューと価格を店頭に表示することが義務づけられていて、そんな写真付きメニューのセット・コース物を見てみると、まず前菜に刺身、そのあとに焼き鳥、そのあとに握り寿司の盛り合わせが出るんですが、なんとそれといっしょに“御飯”がつくという不思議なコース。聞いた話によると味噌汁は御飯と一緒ではなく、まず最初に出されるらしいです。下の写真は04年夏の帰国直前に近所にオープンしたイメージ和食レストラン『TOKYO YAKI』。この店名、パリでは標準レベルのズレ具合です。今思えば話のネタに一度くらい入って食べておくべきでした。


焼かないでぇ

『ニューズウィーク・日本版』によると、味噌汁を泡立てた“味噌カプチーノ”やら、カタツムリとキノコをホウレン草で煮た“デンデンムシ”やら、どうやらロシアの和食が内容的にはいちばんオモシロイらしいです。コラムNo.077に掲載したイルクーツクの日本食レストランになぜオレは入らなかったのか、と自責の念になんたらかんたらです。どうあれこうなりゃこれからは“イタリアに行ったらイタリア料理”“タイに行ったらタイ料理”みたいな“郷に入れば郷ひろみ”的なノーマル発想はかなぐり捨てて、外国のイメージ日本食レストラン、それも明らかに日本人が絡んでなさそうなお店に敢えて入って、考えもしなかった独創的な料理をみつけて食べる、そんなチャレンジグルメをやってみたほうがおもしろいんじゃないかとも思えてきました。トルクメニスタンの首都アシュカバードに日本食レストランがあって、“ニヤゾフ巻き”なんてのを見つけちゃった日にゃぁもうノリノリでしょう。

で、冒頭のクイズの正解は『NIKAYO』でした。



ニカヨですよ、ニカヨ。外角ギリギリに外したありそでなさそな『山田川』、それを『ニカヨ』と読ませるのです。ここでどんなメニューがどんなスタイルで出されたとしても、現地化最先端である私たち日本人には文句を言う筋合いはないのです。むしろ、すぐにでもパリに飛び命名者を探しだし、その並外れたイメージの自由さと、きっと誰にも確認も相談もしようとすら思わなかったであろうその独自性に敬意を表して『北青山イメージ再開発』の特別名誉会員権を贈るべきなのかもしれません。

2007/02/23


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